伝わる日本語の書き方について5つのポイント~明文術~

はじめに

 この回は阿部圭一さんの『明文術―伝わる日本語の書き方』(NTT出版)を参考にして構成していきます。 良書ですので気になった方は購入をおすすめします。 どうやって日本語を読者にわかりやすく伝えることができるかについて悩んでいたのでこの本を手に取りました。一緒に学んでいきましょう。  

※この本を参照する際にはmと略すことにします。

明文とはなにか

定義

明快な文章と明確な表現とによって、事実と意見とを他人にできるかぎり正確に伝えようとする文章」を意味する(m,50頁) 

 
 木下是雄という人がレポートは「明快な文章」と「明確な表現」で書くべきである、といっているのですが、まさにこの「明確な文章」が「明文」に近いものであると紹介されています(m,32頁)。
 
明快な文章「すじが通っていて一読すればよくわかり、二通りの意味にとれることのない文章」
明確な表現「ぼかしたところがなく、ずばりと断定的な表現」
 
 もし明確ではない場合、つまり”曖昧”である場合、言いたいことが読者にうまく伝わりません。明文とは小説家が書くような「うまい文章」ではなく「伝わる文章」なのです。曖昧、つまり複数の解釈が可能になることを避けるためには、ぼかさないこと、断定的な表現であること、筋が通っていることが必要なのです。明文を書くということは、「自分の頭のもやもやネットワークの中にある、今表現したいと思う文章という形に記号化すること」なのです。
 
 そして問題は、いかにして曖昧さを避けることができるか、という点にあります。この方法について5つ本書から抜粋して紹介したいと思います。
 

伝わる日本語の書き方の5つのポイント

※私が独自に抜粋したものです

1 階層構造をトップダウンで記述するのが良い方法である

(定義)トップダウン(top down)記述とは:階層構造の上部からしだいにレベルを下に移しながら記述していく方法です。

※階層構造とは、ピラミッド構造ともいい、高層建築物のように、各階を、下層から上層へと順に積み重ねて全体を構成している場合を意味します。たとえば短い文章の場合、表題が一番上、段落が二段目、文が三段目に来る場合が考えられます。

文章の階層構造

 

 トップダウンの反対はボトムアップであり、いちばん下のレベルから記述をはじめ、すでに説明した材料を使ってひとつ上のレベルの説明を組み立てていく方法です。 階層構造におけるトップダウン記述について本書ではルールFと名付けられています。

[ルールF]トップダウン記述では、要点だけを簡潔に記述する。詳細はその後で述べる。これを上の階層から下の階層へ順に繰り返す。(m,36頁)

 要点から詳細へ、概要から詳細へ、全体から部分へということですね。 階層構造とトップダウン記述が必要な理由は3つあるといいます(m,38頁)。

 

1:読み手がどこでやめても、ある程度の情報が得られる

2:先に概要を示すことで、読み手は書き手とのあいだの文脈を作っていくことができる

3:書き手にとっても、各内容の要約が定まるので、その後の文章の焦点がブレにくくなる

 

 ブログの文章などでも最後まで読まれるとは限らないので、重要なこと、読み取ってほしいことはトップ(最初)に記述し、後で詳細を記述することが望ましいですね。 トップダウン記述と関連して「重点先行主義」というものもあります。重点先行主義とは、重要な事から先に述べようとする文章・説明の記述を意味します。

   金出武雄は「前置きなしに話す」の28節で聴衆の関心度と発表の内容の重要度の関連性について述べています。

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プレゼンテーションなどにおいて日本人は話の初めに重要度の「低い」内容を話してるにもかかわらず、聴衆の関心度は「高い」のです。反対に、話の終わりは発表者が重要度の「高い」内容を話しているにもかかわらず、聴衆の関心度は「低い」のです。このズレを解消するためには、重要度の「高い」内容を話しの「初め」に持ってくることが重要であることを示唆しています。そのための方法として、トップダウン記述、重点先行主義は有効であることがわかります。起承転結とよく言われますが、明文のためには「結起承承結」が望ましいのです。「転」がない理由として、説明の飛躍や断絶などがともなうからだといいます。いきなり読者である受け手と共有していない用語を転で使いはじめるなどということは望ましくありません。このことはルールBで説明されています。

[ルールB]受け手と共有している文脈に含まれない用語や概念を送りてが用いるときには、それより前にその説明がなされていなければならない。(m,45頁)

最初に結論がきて、次に前置きである「起」がきます。それを受けて「承」がくるのですが、いくつ続いてもいいそうです。ルールBにしたがってそれまでに説明したことを使って次々と説明を展開していきます。最後にも「結」がありますが、これはまとめてきな「結」だそうです。  

 

2 文章を書く際に「目標」を設定する

設定するべき目標には次のものがあるといいます。(m,53頁)

1 文章の目的

2 読者およびその前提知識

 まずは「文章の目的」から見ていきます。

[ルール1]あなたがこれから書く文章にたいして、読み手が求める目的を確認する。(m,53頁)

 文章の目的は書き手が「書く目的」ではなく、読み手が「読む目的」であることに注意です。明文を書く目的は「その文章を読む前と、読んだ後とで、読み手の頭のなかのモヤモヤネットワークに何が付け加えられることを期待するか(m,53頁)」です。こうした目的を自問自答して文章を書くことが望ましいといえます。たとえば私のこの記事においては、「どうやったら伝わる日本語を書けるようになるのだろうか」というモヤモヤネットワークに「明文」という方法、技術を付け加えることを期待しています。

 ひとつの文章には一つの目的(主題)にすることが重要です。文章の目的を一文で書いてみるとはっきりすると思います。こうした目的に関する文章を「目標規定文」というらしいです。こうした目標規定文を書くことによって、それ以降の文章執筆における枠組みが定まり、書きやすくなる効果が望めます。

 また、表題にはその文章からどんな情報が得られるかを簡潔に記述する必要があります。

2 読者およびその前提知識

 [ルール5]想定される読み手の層、および、読み手が知っていること、知っていないことを確認する。(m,56頁)

 たとえばある会社の社員だけが読み手だった場合と、不特定の一般の読み手の場合だと当然「前提知識」が違います。前提知識の有無によって書き方を変える必要があるのです。前提知識を共有していないような読み手に文章を書く場合は、前提知識も説明するようにすることが望ましいといえます。

3 文章を書くためには「構成案」が必要

 いきなり構成案なしに文章を書くとガタガタになってしまいます。まずは構成案を考えましょう。具体的にいえば、文章を構成する材料集めと材料を構成案の形に配列するという2つのステップが重要だそうです(m.58頁)。 材料メモは時間をかけてつくり、思いついたことは何でもメモしていきましょう。この作業にはたとえばブレインストーミング(与えられた問題に対してアイデアを次々に出していく)が有用です。イメージとしては、骨組みをまず作って肉付けしていく感じですね。

[ルール9]書こうとする内容の情報構造を明確につかみ、それを反映するように段落や章・節の構成を決めていく。(m,62頁)

 材料メモに書きだされたさまざまな関係(情報の構造)をつかむことが重要です。関係の例として、上位・下位関係、並列にならぶ関係、原因・結果あるいは理由・結論の関係、時間的、空間的な順序関係などが挙げられます。

 階層構造のルールについてもまとめてとりあげておきます。

[ルール10]一つの構成単位には一つの話題しか書かない。

[ルール11]一つの構成単位(例えば、章)を構成する下位の単位(例えば、節)には、同格のものを並べる。その個数は、7つくらいまでとする。

[ルール12]下位の構成単位を並べる順序は、なんらかの規則に沿った順序にする。

[ルール13]あることを理解するには、先に別のことを知っておかなければいけないという、説明の順序に注意する。

(m,63~64頁)

 ルール10を「一単位一義の原則」というらしいです。一つの単位には一つの一義、一つの節には一つの一義、一つの段落には・・・文には・・と適応させていきます。

 ルール12の「マジカルナンバー」は、人間が新しい情報を一度に覚えられる量だそうです。

 ルール13は「文章のどこにおいても、そこまでに読んだことだけを使ってその記述が理解できるように、材料が配列されなければいけない」そうです。

 

4 事実と意見とは、明確に区別できるように書く

 これは当たり前のようですが、意外と見落とされがちですね (おっとこれも意見ですね、とくに根拠がないので)。

ー>”私は”よく見落としてしまうことがあります。

 

事実とは、「証拠を示すことのできる陳述(m,98頁)」です。

意見とは、「主観的な判断」であるといっていいかもしれません。

※「推論、判断などの狭義の意見、確信、仮説、理論などの広義の意見(m,99頁)」などがあります。

 

 事実と意見を明確に区別できるように書く場合にはテンプレートを用意したほうがいです。事実の場合は、主観的な形容詞や副詞を入れないこと。代わりに「数値」を入れることなどが考えられます。大幅な減少、よりも30%の減少という方が望ましいです。意見の場合は、「私は・・・と考える」という書き方をするのです。本書では「・・・と考えられる、と思われる、であろう」などの表現は理系のレポートや仕事の文章ではできるだけ避けたほうがいいとあります(m,101頁)。著者が責任を逃れているような印象を与えるからです。

5 複数の解釈を許すな

 まずはルールを引用しておきます。

[ルール48]修飾語と被修飾語とは隣り合っているのが、最も良い。

[ルール49]修飾語と被修飾語とは、なるべく近くにおく。

[ルール50]修飾語が、直後の語を修飾しないことを明示するには、修飾語の語の読点(、)を打つ。

[ルール51]長い修飾語を前に、短い修飾語を後にする。

[ルール52]すぐ後の語を修飾するのではなく、離れた語を修飾している語に注意。

[ルール53]「AとB」という形のとき、Bの後にも「と」を入れると、AとBとの並列性がより明確に表現できる。

(m,131~135頁)

 

修飾語と被修飾語についての説明をブリタニカ百科事典から引用しておきます。

文法用語。「とてもきれいな絵」で,「とてもきれいな」はどのような絵なのか,「とても」はどれほどきれいなのかを示している。このように,文中で他の語句の表わす内容に限定や説明を加える語句を修飾語といい,修飾されている語句を被修飾語という。

 

まずはダメな例について挙げておきます。

 

「きのうお借りした本を返しに行きましたが、お留守でした。」

この文章における「曖昧な部分、複数の解釈を許す部分」は「きのう」という修飾語がどこにかかっているかという部分です。

「きのう」が「お借りした(被修飾語1)」にかかっているのか、「本を返しに行きました(被修飾語2)」にかかっているのかが曖昧ではっきりしていません。あるいは「お留守でした(被修飾語3)」だけにかかっているのかもしれません。

一週間前に借りた本を「きのう」返しに行ったのかもしれないからです。つまり「お借りした(被修飾語1)にはかかっていない、つまり被修飾語ではないという可能性も出てくるのです。

 

そこで、ルールを適用し、修飾語と被修飾語を隣り合わせ、あるいは近くにおきます。

「お借りした本を返しに”きのう(修飾語)”返しに行きました(被修飾語)が、お留守でした。」

となれば問題ないはずです。日本語は前から後に修飾語によって就職させるので、この場合「きのう」が「お借りした本」にかかることはありません。また、句読点をつけることによって、「お留守でした」にかかることもないのです。

 

「きのうお借りした本を返しに行きましたが、お留守でした。」という文には、「きのう」と「お借りした本を返しに」という修飾語が、「行きました」という被修飾語にかかっていると考えられます。この場合、どちらの修飾語を先に置くかということが問題になります。本書によれば、長い修飾語を先に置くのが望ましいそうです。

「お借りした本をきのう返しに行きましたが、お留守でした。」という文章に変える必要があります。

 

「爽やかな5月と6月」

AのBとCという構造になっています。爽やかな(A)のはBなのか、Cなのかがわかりません。ここが曖昧です。

「(AのB)とC」という解釈と、「Aの(BとC)」という二つの解釈を許してしまっています。

 

そこで、「6月と爽やかな5月」に変えることによって、2つの解釈を許さない文章ができます。

 

「川べりにある露天風呂と本館とを結ぶ長い廊下」

川べりに本館がないということを明確にしなければいけない場合次の文になります。

「本館と川べりにある露天風呂とを結ぶ長い廊下」

AとBという形のときに、Bの後に「と」をいれると並列性が明確に表現できるそうです。

 

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蒼村蒼村

投稿者プロフィール

創造を考えることが好きです。

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