はじめに
前回の記事である「伝わる日本語の書き方について5つのポイント~明文術~」に続いて「文章力」について紹介したいと思います。基本的に「明文」と「文章力」は重なる部分が多いのです。「文章力」のひとつとして「明文術」があるのです。両方読んでいただけるとより伝わる日本語についての知識が深まると思います。さまざまな本を読んだ感想として、文章に関する本はほんとうに共通する部分が多いです。日本語の文法に関する部分から構成論に至るまで、ほとんど共通しています。異なる要素は「わかりやすさ」や「例の違い」ですね。私がこの本を読んで感じたのは、日本語の文法についてあまりにも無知だったことです。
(前回の記事についてのリンクはこちら)伝わる日本語の書き方について5つのポイント~明文術~
今回参考にする文献は『文章力の決め手』阿部紘久(日本実業出版社)です。参照する際はbと略すことにします。本書は60のテクニックを例を挙げながら分かりやすく説明してくれているのでおすすめです。気になった方はぜひ手にとってみてください。
文章力とはなにか
定義
文章力は「7つの要素からなる総合的かつ基礎的な能力」から構成されます。(b,138頁)
7つの要素からなる総合的かつ基礎的な能力 |
1 良いテーマを見つける「着想力」 |
2 テーマに関わるさまざまな事象に連想を広げる「連想力」 |
3 その中で書くべきことを峻別(しゅんべつ)する「優先順位の判断力」 |
4 書くべきことを「構造的に把握する力」(因果関係などの論理的構造、時間的・地理的関係など) |
5 そこに自分独自の考えを加える「創造性、独自性」 |
6 読み手の立場、心情、知識レベルなどを理解する「人間理解力」 |
7 言わんとすることを、読み手に伝わる簡潔・明瞭な言葉で表す「言語表現力」 |
1から5にかけての要素は「自分の考えを組みて立てる力」です。6の要素は「相手の身になって感じたり考えたりする想像力」であり、7の要素は「的確な言語表現力」です。この7の要素がはじめにの部分で紹介した「明文術」と重なりあうものです。こうした「何を感じ、何を考え、それをいかに伝えるか」を考える能力はほんとうに多様な場で役立つものだと私は考えます。であるからこそ学ぶべきだと思います。「創造」のための「創造法」のひとつとして「文章力」を私は位置づけたいと考えます。
「文章力」に関する5つのポイント
※私が独自に抜粋したものです
1 言葉を削ればより伝わる
第四章のテーマです。問題は「削り方」です。たとえば「重複を排す」、「短い表現を選ぶ」などが考えられます。
◆会議のときに上司に怒られたとき、ある先輩が励ましてくれたときがあった。
◇会議で上司に怒られたとき、ある先輩が励ましてくれたことがあった。
(b,55頁)
この◇は改正されたものです。文が短くなっていることがわかります。 また、同じ言葉が2つ以上重なること(重複)が避けられています。「とき」が3つ重なっていた文が、1つになっています。短い文章はわかりやすいです。ドストエフスキーの小説は読んだ人はわかると思いますが、一文が長く、分かりにくいです。ですがわかりやすさと文章の芸術性は別の話です。ここでは実用的な文章について話しています。
特に目立つ重複の例として「こと」「という」が挙げられています。
◆自分が夢中になれることを見つけることは、大切なことである。また、自分の苦手なことを知ることも、必要なことである。
◇自分が夢中になれることを見つけるのは、大切である。また、自分の苦手なことを知るのも、必要である。
(b,56頁)
「こと」が減ってわかりすくなっていますね。「こと」は「の」に言い換えられることがポイントです。また、「ということ」は短く「こと」に言い換えたほうがいいです。たとえば、「約束を守るということを自分に課す」というよりも「約束を守ることを自分に課す」というほうが短くていいです。
他にも「同じ意味のことを重複して書いているケース」がよくあるそうです。以下に例を挙げます。
・「たいていの場合、〜であることが多い」という文は「たいていの場合」と「多い」という同じ意味のことが重複して書かれています。
・「〜に応じたふさわしい〜を選んでいる」という文は「応じた」と「ふさわしい」が重複しています。
・「〜参考として役立てたい」という文は「参考として」と「役立てたい」が重複しています。
・「原因は〜のせいだ」という文は「原因」と「せい」が重複しています。
・「考えてみると〜があると思う」は「考えてみると」と「思う」が重複しています。
・「注目されるのは〜ポイントです」は「注目」と「ポイント」が重複しています。
・他にも「いまさら〜もはや」、「明らかに〜確実」、「行ける機会を作ることができた」などが挙げられます。
文を削るためには、「同じことが、もっと少ない字数で書けないか」と考える習慣をつけることが重要です。
・「〜しなくてはいけないこと」→「〜すべきこと」
・「〜していくにあたって」→「〜するにあたって」
・「〜であるのは」→「なのは」
・「展開を行っている」→「展開している」
・「開発が実施される」→「開発される」
2 「てにをは」を正しく使う
「てにをは」とは、助詞を意味します。たとえば「に」と「で」の逆転現象がよく起きてしまっているといいます。「てにをは」を正しく使うことで、文章がわかりやすくなります。例文をまずは引用します。
◆コンビニでは年賀葉書も置いてある。
◇コンビニは年賀葉書も置いてある。
◇コンビニでは年賀葉書も売っている。
(b,100頁)
原則1 ある(いる)という存在には「に」を使う
原則2 「売る」などの行為には「で」を使う
原則3 場所には「で」、時間には「に」を使う
例:10月以降に、プレイが可能になります。ゲームセンターで学びたいです。
原則4 「に」と「を」の使い分け
「に向く」 | 「を向く」 |
・静止物の方向性 | ・方向転換 |
・最初から定まった方向性 | ・意志的動作 |
「窓を南に向いている」 | 「声のする方を向く」 |
「子どもに向いた読み物」 | 「彼は横を向いてしまった」 |
(森田良行『日本語の類義表現時点』(東京堂出版))
✕勉強を励む ◯勉強に励む
✕任務を取り組む ◯任務に取り組む
✕相手の事情を十分に配慮したい ◯相手の事情に十分配慮したい
✕会議を遅刻する ◯会議に遅刻する
原則5 「を」と「で」の使い分け
動作の対象物には「を」を使い、最終的にやりたいことの手段や方法には「で」を使う
◆自分で稼いだお金で、車を買う資金にする。
◇自分で稼いだお金を、車を買う資金にする。
◇自分で稼いだお金で、車を買う。
(b,108頁)
「で」の使い分け一覧(広辞苑)
動作の行われる所・時・場所を示す | 家の中で遊ぶ |
手段・方法・道具・材料を示す | ペンで書く |
理由・原因を示す | ペンで書く |
事を起こした所を示す | 組合で決めたこと |
事情・状態を示す | いいかげんな気持ちでやる |
期限・範囲を示す | 明日で公演は終りです |
配分の基準を示す | 一時間で4キロ歩く |
(デジタル大辞泉)
原則6 「を」と「が」の使い分け
人+「を」〜ている(能動態)
物+「が」+〜られている(受動態)
「を」の使い方
1 動作・作用の目標・対象を表す。 | 「家を建てる」「寒いのをがまんする」「水を飲みたい」 |
2移動の意を表す動詞に応じて、動作の出発点・分離点を示す。 | 「東京を離れる」「席を立つ」 |
3 移動の意を表す動詞に応じて、動作の経由する場所を示す。 | 「山道を行く」「廊下を走る」「山を越す」 |
4 動作・作用の持続する時間を示す。 | 「長い年月を過ごす」「日々を送る」 |
補足 | 「水を飲みたい」などは、「を」の代わりに「が」を用いることもある。格助詞「を」は、の間投助詞から生じたといわれる。 |
(デジタル大辞泉引用)
「が」の使い方
1 動作・存在・状況の主体を表す。 | 「山がある」「水がきれいだ」「風が吹く」 |
2 希望・好悪・能力などの対象を示す。 | 「水が飲みたい」「紅茶が好きだ」「中国語が話せる」 |
3 (下の名詞を修飾し)所有・所属・分量・同格・類似などの関係を示す。 | ㋐所有。…の持つ。「われらが母校」 ㋑所属。…のうちの。 ㋒分量。 ㋓同格。…という。 ㋔類似。…のような。 |
4 (準体助詞的に用いて)下の名詞を表現せず、「…のもの」「…のこと」の意を表す。 | |
5 形容詞に「さ」の付いたものを下に伴って、それとともに感動を表す。…が…(であることよ)。 | |
6 連体句どうしを結んで、その上下の句が同格であることを表す。…(なもの)であって…(なもの)。 | |
7 (「からに」「ごとし」「まにまに」「むた」「やうなり」などの上に置かれ)その内容を示す。 |
(デジタル大辞泉)
例1:✕帽子が売っている◯帽子を売っているor帽子が売られている
例2:✕天気予報がやっている ◯天気予報をやっている
例3:✕フランス語をわかります ◯フランス語がわかります(能力などの対象)
例4:✕憶測が呼んでいる ◯憶測を呼んでいる(動作・作用の目標・対象。「憶測」は主体ではなく対象。)
3 的確に書く
原則1 「例え」と「たとえ」を使い分ける
「たとえ」は「たとい」から来た言葉で「例え」とは無関係です。
「仮=令/縦=令/▽縦い(たとい)」と漢字で書きます。「例い」ではありません(デジタル大辞泉)。
(例)✕「例え賛成されても〜」◯「たとえ賛成されても〜」
原則2 「すごい」と「すごく」を使い分ける
名詞の前には「すごい」を使い、動詞や副詞の前には「すごく」を使います。
(例)✕「すごい気を使う。」◯「すごく気を使う」
原則2 「増大(減少)」と「拡大(縮小)」を使い分ける
数の場合には「増大」、規模のばあいには「拡大」、時間のばあいには「延長(短縮)」です。
(例)✕「常連のお客様拡大を遂げる。」◯「常連のお客様を増やすことができました。」
原則3 「から」と「こと」を使い分ける
「きっかけ」の場合、「こと」を使う。「きっかけ」は何かを始める契機となった「出来事」を意味するからです。
「から」は理由を意味するので、「こと」を使いません。
(例)✕「〜のきっかけは〜からでした」◯「〜のきっかけは〜ことでした」
(例)✕「〜した理由は〜ことでした」◯「〜した理由は〜からでした」」
原則4 「一助」と「一因」を使い分ける
「一助」は良いことを実現するために手を差し伸べることを謙遜していう言葉です。
「一因」は広く原因について使う言葉です。
(例)✕「あの死亡事故はネジが緩んでいたことが一助となっている。」◯「あの死亡事故はネジが緩んでいたことが一因となっている。」
(例)✕「災害復興の一因となる。」◯「災害復興の一助となる。」
原則5 「群を抜いている」と「著しい」を使い分ける
「群を抜いている」は優れているものを表すときに用いる。
「著しい」ははっきりとわかるものを表すときに用いる。優劣は関係ない。
(例)✕「販売不振が群を抜いている」◯「販売不振が著しい」
原則6 「欠かすことのできない」を使い分ける
「欠かすことのできない」は「無くてはならない必要な」という意味です。悪いことに対して「欠かすことのできない」というと、悪いことが無くてはならない必要なことであるという意味になってしまいます。
(例)✕「環境問題は欠かすことのできない問題だ」◯「環境問題は常に関心を向けなければならない」◯「環境問題は検討を欠かすことのできない問題だ」
原則7 「能動」と「受動」を使い分ける
「能動」とは、「他からのはたらきかけを待たずにみずから活動すること」を意味します。「能動」の対義語が「受動」であり、「他から動作・作用を及ぼされること」を意味します。基本的に物は能動的ではなく、受動的です。
✕「会社は法律を守っている」◯「会社では、法律が守られている」(会社は活動する主体ではなく場所です)
✕「洗練した装い」◯「洗練された装い」(装いは主体ではなく対象です)
原則8 「する」と「させる」を使い分ける
相手やものを必要としない動詞を「自動詞」といい、必要とする動詞を「他動詞」といいます。自動詞が「する」に対応し、他動詞が「させる」に対応します。たとえば「チームを発足したい」という文章は誤りです。「を」は他動詞とセットで使うからです。「チームを発足させたい」が正しいです。自動詞として用いたいならば、「が」をセットで用います。「チームが発足する」となります。
ただし、「を」であるあからといって必ず「させる」であるとは限りません。「を」「・・・する」をセットで使う場合もあります。「が」「・・・なる」と対応するような「を」の場合、「・・・させる」ではなく「・・・する」となります。
「を」「・・・する」を使う場合で正しいケースは、対応が「が」「・・・なる」になるケースです。たとえば「いい匂いをさせる」の対応が「いい匂いがなる」でないことを考えれば、「を」・・・「する」が間違いであることがわかります。「いい匂いををさせる」の対応は「いい匂いをがする」です。「握力を強くさせる」の対応が「握力が強くなる」というように「が」「・・・なる」であることを考えれば、「を」・・・「する」が正しいことがわかります。
「が」「・・・する」 | 「を」「・・・させる」 |
いい匂いがする | いい匂いをさせる |
原因がはっきりする | 原因をはっきりさせる |
彼が北海道に出張する | 彼を北海道に出張させる |
(b,93頁)
原則9 「なる」と「する」を使い分ける
「が」「・・・なる」 | 「を」「・・・する」 |
握力が強くなる | 握力を強くする |
将来が明るくなる | 将来を明るくする |
彼がキャプテンになる | 彼をキャプテンにする |
(b,93頁)
原則10 列挙する時は、品詞を揃える
品詞とは:文法的性質によって分けられた単語の類。名詞,動詞など(大辞泉)
◆地球温暖化の結果、猛暑、北極の氷が溶けてしまい、海面上昇などと、既に被害は出ている。(名詞、動詞、名詞)
◇地球温暖化の結果、猛暑、北極の氷の溶解、海面上昇などと、既に被害は出ている。(名詞に統一)
◇地球温暖化の結果、猛暑が到来し、北極の氷が溶け、海面も上昇するななどと、既に被害は出ている。(動詞に統一)
(b,96頁)
4 述語を書き忘れない
述語とは:文の成分の一。主語について、その動作・作用・性質・状態などを叙述するもの。「鳥が鳴く」「山が高い」「彼は学生だ」の「鳴く」「高い」「学生だ」の類。(デジタル大辞泉)
特殊な場合を除き、「述語」を省いてはいけません。(b,30頁)
◆当部のパソコンは機能陳腐化や、一部対応できないソフトも出始めている
◇当部のパソコンは機能が陳腐化し、一部のソフトに対応できなくなっている。
・・・
◆各線とも平常通りの運転です。
◇各線とも平常通り運転されています。
(b,31~32頁)
「当部のパソコンは機能陳腐化や・・」という文章は述語がありません。後の文章にも「機能陳腐化」の述語にあたるものがありません。機能陳腐化という名詞に「している」という述語を加える必要があります。また、「各線とも平常通りの運転です」のように、「名詞」+「です」で済ませるのではなく、「名詞」+「述語」+「です」(「運転されています」)とするべきです。
5 読点を正しく使う
読点(とうてん)とは:日本語の文中の切れ目に打つ記号。普通には「﹅」を使う。てん(デジタル大辞泉)。
読点がほしいところ | 例 |
1 長めの「主語」の切れ目 | AでもありBでもありCでもある少年が、ある少女と仲良しだ。 |
2 長めの「目的語」の切れ目 | AでもありBでもありCでもあった時の悲しさを、覚えている |
3 「原因」と「結果」、「理由」と「結論」の間 | ・・・であるから、・・・だ。・・・ので、・・・だ。 |
4 「情況・場」と「そこで起きていること」の間 | ・・を終え、・・・した。・・・していると、・・・だ。 |
5 「前提」と「結論」の間 | ・・・だったら、・・・だ。 |
6 時間や場所が変わるところ | 10年前に、・・・だった。 |
7 逆説に変わるところ | ・・だが、・・・だ。 |
8 対比したり、言い換えたりする時 | ・・・する一方で・・・だ。・・・という人もいるほど、・・・は・・・だ。 |
9 別の意味に取られたくない時 | ✕思いがけない場所である人と出会った。 ◯思いがけない場所で、ある人と出会った。 |
10 隣同士の修飾語の間に、予想外の関係が生じてほしくない場合 | ✕粘り強く努力するという人として大切な姿勢を学んだ。 ◯粘り強く努力するという、人として大切な姿勢を学んだ。 |
11 ひらがな、カタカナ、漢字ばかりが続く場合 | |
12 その他(挿入句の前後、長い修飾語の切れ目など) |
(b,188頁)
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