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動画での説明
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はじめに
社会心理学とは、人間の社会的な振る舞いの法則や仕組みを解明する学問である。
この動画シリーズは下の図に示すように、創造発見学に位置づけられている。
この記事のシリーズは創造発見学に位置づけられている。要するに、アイデアをひらめくための情報を学ぼうというわけである。ビジネス、友人関係、学業、さまざまなものにそれぞれ活かしてほしい。
できるだけ1ワードに説明する対象を絞っていく。※社会心理学だけではなく他の心理学を扱うこともある。
基本的な説明プロセスは、上の図の通りである。
ポライトネス理論に関わる問題発生の例
日常生活での失敗
新入社員が上司に、「この資料、今すぐ見てくれませんか」と要求してしまい、上司が負担を感じるケース。軽いジョークを言ったつもりが、相手が傷ついてしまうケース。ビジネスで「資料」とだけ同僚にメールしたり、友人にスタンプの返信ばかりをしてしまって相手に不満が溜まるケース。
その他
留学生が友達に敬語を使い、一方では先生にタメ口をきいて相手が距離を置いてしまうケース。皮肉によって相手が傷ついてしまうケース。あまりにも丁寧に頼みすぎて、逆によそよそしく感じさせてしまうケース。
特定の話題がよしとされる場に、政治など、無関係な話をずっとして相手が不満になってしまうケース。空気を読めなくて場が壊れてしまうような発言をしてしまうケース。
このように、我々の社会ではコミュニケーションが円滑でなくなる瞬間が多々ある。しかし、文脈によっては上司にタメ口のほうがよかったりすることもあるので「絶対的な法則」として簡単にまとめることは難しい。
このような対人関係の円滑さの要素を考える際に、「ポライトネス理論」はよいヒントになる可能性がある。
ポライトネス理論
ポライトネス理論とはなにか、意味、定義、わかりやすく解説
ポライトネス理論(英:politeness theory):人間関係を円滑にするための言語的な戦略を体系的に捉える理論のこと。
ポライトネス理論はブラウンとレビンソンらによって1978年に提唱された(以下、便宜的に「ブラウンら」と省略)。
重要なのは、単に発話の丁寧さを絶対評価するものではなく(「おはよう」より「おはようございます」が丁寧など)、特定の場面において、ある発話が対人関係を円滑にするか・しないかという相対評価、調節機能に着目した理論であるという点である。
理論とは一般に、「個々の現象を法則的、統一的に説明できるように筋道を立てて組み立てられた知識の体系」を意味する。
たとえば「おはよう」よりも「おはようございます」のほうが、ある文脈では人々が丁寧だと感じやすいようだというアンケートをとったとする。しかしこのアンケート結果は、「AのときはXである」という個々の現象を限定的、因果的に説明するだけで、体系的には説明できていない。論理的ではあるが、理論的ではない。
「AのときはXである可能性が高い」といった個別の法則は有用であるが、応用が効きにくい。
たとえば「知り合いの鈴木さんがAかつB、でCをしたときはXである」という限定的な法則は、主に鈴木さんと関わる人にしか有用ではない。もちろん、汎用性の高い法則もありうる。
理論といえるためには、とくに、より抽象的(広範囲)な「パターンや規則性」の発見が重要になる。また、それぞれの概念の定義や、概念同士の関係も明らかにする必要がある。
あとで扱うが、ブラウンらは各用語を定義し、どのような要素が関わり合って相手の体面を脅かすのかという計算式を提示した。さらに、人々は相手の体面を脅かすと考えた場合、どのような戦略をとることができるのかという可能な選択肢を提示した。ある行為(基本的にはどんな行為でも)がなぜ相手の体面を脅かしたのか/脅かさなかったのかを説明するための枠組み(道具)を準備したというわけだ。
もちろん、理論だけでは個別の現象(特定の会話の機能)を説明することはできない。詳細な個別の現象の情報と、その背景が必要になる。
誰が、どのような場所で、どのような空気で発話したのか。発話者の国籍、文化、容姿、年齢なども重要になる。さらには発話者の言語体系の知識、社会制度の知識など、さまざまな情報を理論に入力することによって、理論は適切な説明を出力することが可能になるのである。
我々も日常的に理論を用いている。たとえば「なんとなくこういう人は危険だと見抜いたり、群衆で知人を見分けることができる」といったパターンを限定的ではなく体系的に把握している。
しかし必ずしも論理的・合理的・客観的に整理され、言語化されたものではない(暗黙知的)。その意味で、学問における理論とは区別される。
・特に参考にしたページ
宇佐美 まゆみ「ポライトネス理論と対人コミュニケーション研究」[2002],1p
ポライトネスとはなにか、意味、定義、わかりやすく解説
ポライトネス(英:politeness):対人関係の場面において相手のフェイス(体面)を脅かさないようにし、円滑にするための調節機能のこと。
より簡易的にいえば「ある発話をされて相手が心地よい」と思えば、それはポライトネス(対人関係調節機能)があったということになる。
丁寧だから、礼儀正しいから、敬意があるから、改まっているからといった「発話そのものの形式」を必ずしも意味しない。
結果的に、ある場面に機能したかどうかが重要なのである。※このポライトネスの定義は、ブラウンらのポライトネス理論におけるものである。
・特に参考にしたページ
「社会心理学」,有斐閣,補訂版第二刷,226p
宇佐美まゆみ「談話のポライトネス」[2001],10p
語用論的ポライトネスと規範的ポライトネス
言語学者である宇佐美まゆみさんの整理では、ポライトネスには「語用論的ポライトネス」と「規範的ポライトネス」にまず分類することができるという。
語用論的ポライトネス:円滑な人間関係の確立・維持のために機能する言語行動のこと。
ブラウンらのポライトネス理論におけるポライトネスは、この意味で使われているという。ブラウンらは「円滑な人間関係を維持するための言語的ストラテジー(戦略)」と定義し、発話の効果(結果)に着目している。
特定の文脈において、特定の発話がコミュニケーションを円滑にさせる・させないといった個別の法則をまとめる立場もあるという。いわゆる「会話の原則」を集積する作業である。
これも広い意味では語用論的ポライトネスだいう。ただし、「理論」としてポライトネスを捉える立場とは異なる。
規範的ポライトネス:言葉遣いそれ自体が文脈に関わらず、どの程度「丁寧」かを表す度合いのこと。
どのような状況か、どのような人物かなどとは無関係に、言葉の形式それ自体の絶対的な丁寧度を捉える際に用いられる。社会言語学などで重視されているという。
※たとえば「おはよう」と「おはようございます」のどちらが丁寧なのか、などを等級づけていく作業である。※日本語で言うと敬語かどうかなどの話にもなるが、英語では「would you?」と「could you?」、[can you?]などが比較されていくことになる。
・特に参考にしたページ
宇佐美まゆみ「談話のポライトネス」[2001],10p
コミュニケーションと会話の格率とは
コミュニケーション(英:communication):広義には、情報の送り手と受け手の間の共同作業のこと。日本語で言えば「意思疎通」である。
重要なのは、送り手が一方的に自分の頭の中の意図や情報を正確な言葉に変換して相手に伝達さえすれば、適切なコミュニケーションになるわけではないという点である。
受け手が理解できなかったり、受け手の解釈する意思を削いだりすればコミュニケーションは円滑にすすまない。そのため、送り手は受け手の期待や態度、能力などを先読みする必要がある。
たとえば幼稚園児ならこの言葉で大丈夫か、このような態度で大丈夫かといったような「配慮」を行う必要があるのであり、「相手の気持ちになる」という推測が必要になる。
言語哲学者のグライスは、コミュニケーションが共同作業であり、伝達にかんする「ルール(格率、準則)」がそこには存在しているという。このルールに反する伝達だと、コミュニケーションが円滑に成り立たないというわけである。
グライスはこのルールを4つにまとめ、「会話の格率」と呼んでいる。
- 量の格率:必要なことはすべて述べ、必要以上に多くの情報は送るな
- 質の格率:真実だけを述べ、確証のない情報や嘘の情報を送るな
- 関係の格率:受け手にとって無関係な情報は送るな
- 様態の格率:あいまいな表現、わかりにくい表現は避け、簡潔で順序だった述べ方をせよ
たとえば極めて難解な専門用語ばかりを散りばめて発信しても、多くの場合、うまくいかない。様態の格率に反するからである。
明らかに下手な人に対して「上手いね」と発話すれば、それはアイロニー(皮肉)であり、質の格率に反しているといえる。わかりきったことをわざとらしくくり返していえば、量の格率に反するかもしれない。このように、我々は意識するにせよしないにせよ、ルールを守ってもらえると「信頼」し、そのうえで「推論」を行っている。会話の格率に明らかに反してくるような、信頼を得ることができない相手とコミュニケーションを続けることは難しい。
・特に参考にしたページ
「社会心理学」,有斐閣,補訂版第二刷,225p
ポライトネスの会話の格率である
ポライトネスも一種の「コミュニケーションのルール」であると考えることができる。たとえば会社の上司は、部下が敬語で接してきてくれることを期待しているのであり、そうしたルールをまもってくれると信頼しているのである。
たとえ同じ情報であったとしても、ルールを守らない人の伝達を解釈したり、理解しようとしたりする気が削がれてしまう。また、たんに受け取りたいかどうかという気持ちの問題だけではなく、情報自体が歪んで伝わってしまうこともありうるだろう。正反対の意味として受け取ってしまうこともありうる(冗談か、本気なのかわからない不安定な状態)。
ポジティブ・フェイス/ネガティブ・フェイス
社会心理学におけるフェイスとはなにか、意味、定義、わかりやすく解説
フェイス(英:face):対人関係の中で人がもつ、「尊重されたい欲求」のこと。
たとえば「他者に礼儀正しい人だと思われたい」という欲求をもっていた場合、礼儀正しい人が理想的な自己像となる。「プライベートを他者に尊重してほしい」という欲求をもっていた場合、「他者にプライベートを尊重してもらえる自分」が理想的な自己像となる。
・特に参考にしたページ
宇佐美 まゆみ「ポライトネス理論と対人コミュニケーション研究」[2002],2p
体面、面子、体裁など
社会的に期待されていると感じる自己像は、とくに「体面(たいめん)」や「面子(めんつ)」という言葉と関連してくる。実際に、「体面」がフェイスの翻訳として使用される場合がある。
個人の尊厳や信用、評判などが保たれている状態が、「体面が保たれている状態」だといえる。たとえばあまりにもプライベートが尊重されないような状態は、体面を保てていない、尊厳を保てていない状態だといえる。
「面子が潰れた」というとき、「社会に期待されていた役割を満たせていない自己像の状態」を意味することになる。たとえば「知識があるという人間だ」という理由で会議に呼ばれたのに、無知な側面を出してしまった場合など。
※体面、面子、体裁などの細かい違いはあまり深く考えないことにする(さきほどのフェイス概念に広義に統一する)。
ポジティブ・フェイスとネガティブフェイスの違いとはなにか、意味、定義、わかりやすく解説
ブラウンらはフェイスを「ポジティブ・フェイス」と「ネガティブ・フェイス」の2種類にわけて説明している。
ポジティブ・フェイス(英:positive face):他者に理解されたい、好かれたい、賞賛されたいという、他者に近づきたい欲求のこと
ネガティブ・フェイス(英:negative face):他者に邪魔されたくない、干渉されたくないという他者と距離を置きたい欲求のこと。
図にするとこのようなイメージとなる。もちろん、他者からすれば自分が自己であり、同じような欲求をもっている。
要するに、お互いに欲求が満たされている状態が望ましいのである。一方だけが近づきたい欲求が過大すぎると、他方の近づかれたくない欲求を満たせずに、コミュニケーションのバランスを崩すのであるといえる。
・特に参考にしたページ
宇佐美 まゆみ「ポライトネス理論と対人コミュニケーション研究」[2002],2p
ポジティブ・ポライトネスとネガティブ・ポライトネスの違いとはなにか、意味、定義、わかりやすく解説
配慮する対象が相手のポジティブ・フェイスの場合の対人関係調整機能を「ポジティブ・ポライトネス」という。たとえば相手を褒めたり励ましたりする場合などが挙げられる(相手の自尊心を保つ)。
配慮する対象が相手のネガティブ・フェイスの場合の対人関係調整機能を「ネガティブ・ポライトネス」という。たとえば「お急ぎでなければ・・・」といって相手の選択の余地を残して依頼する場合などである(相手の自由を保つ)。仕事場で敬語を使うことは、相手のプライベートを脅かさない配慮だともいえる。
ポライトネスではないという用語として、「インポライトネス」が用いられることがある。相手を尊重していない、失礼な、不愉快な要素、機能のこと。
宇佐美さんはさらに、相手のフェイスの侵害を特別に意図して軽減する行為や、意図あるいは意図せずに侵害してしまう行為を「有標ポライトネス」と呼ぶ(インポライトネスを包含した用語である)。そうではないポライトネスを「無標ポライトネス」と呼んでいる。たとえば「お時間よろしければ・・・」という発話は有標的だが、「相手を中傷しないような」発話は無標的(守られて当たり前なこと)なケースが多い。
ここで重要なのは、同じ発話でも、何が「普通(無標)」で、何が「逸脱(有標,特別、意図的)」なのかが文脈によって変動しうるということである。
いわゆる「文脈依存性」である。社会学のエスノメソドロジーや、哲学の言語ゲーム論と関わりが深い問題である。ブラウンらは、ゴフマンの儀礼論に影響を受けているという点もポイントである。
たとえばタメ口を使うことが有標になるかどうかは、そのコミュニケーションにおいて何が無標かに依存する。たとえば部下が上司に、仕事中に突然タメ口を使いだせば有標であり、かつインポライトネスになることが多い。丁寧かどうか、相手が不快かどうか、コミュニケーションが円滑かどうかではなく、普通(あたりまえ)との差異があるかどうか、逸脱している(いつもと違う)かどうかという点が有標では重要になる。
一方で、酒の席でちょっとした勢いでタメ口が出てしまうことはたしかに有標(いつもとは違う)かもしれないが、必ずしもインポライトネスになるとはいえない。上司からすれば、「すこし心を開いてくれたのかな」と、上司のポジティブ・ポライトネスを満たす場合がありうる。
・特に参考にしたページ
宇佐美 まゆみ「ポライトネス理論と対人コミュニケーション研究」[2002],2p
フェイス侵害度の見積もりの公式
フェイス侵害行為(Face Threatening Act:FTA):相手のフェイスを脅かす可能性のある行為。 例:相手に頼み事をする場合など(相手に時間や労力を使わせるという意味で、自由を奪う)。
フェイス侵害度(Face Threat:FT):相手のフェイスを脅かす度合い。たとえば消しゴムを借りるよりも、お金を借りるほうが侵害度が一般的には高くなりがちであるといえる。侵害度が高くなればなるほど、よりポライトネスの高さが要求されるという。高すぎる場合はそもそも侵害しないという選択をしなければならない。
フェイス侵害度の見積もりの公式:Wx = D(S,H) + P(H,S) + Rx
S:話し手(Speaker),H:聞き手(Hearer)
Wx=フェイス侵害度,D:話し手と聞き手の距離,P:聞き手の話し手に対する力,Rx:特定の文化で、ある行為(x)が相手にかける負荷度の絶対的順位に基づく重み。
ざっくりえば、フェイス侵害度は「相手との社会的距離(相手と親しくないほど大きくなる)」と「力の差(相手が強いほど大きくなる)」を足し合わせ、さらに「相手にかける負荷度(文化的・社会的に許容されていなければいないほど大きくなる)」を足して決まるというわけだ。
たとえば「相手と親しくなく、相手のほうが力が大きく、さらにお金は簡単には借りるものではないという文化がある」という文脈において、お金を借りるというフェイス侵害行為は、フェイス侵害度が極めて高いということになる。
一方で、「相手と親しく、力もそれほど上下関係がなく、筆記用具を貸し借りするくらいは普通だという文化」を文脈に「消しゴムを借りる」というフェイス侵害行為を考えてみる。この場合は、フェイス侵害度がきわめて低いと言えるだろう。
このようにして相手との距離、力、文化という3つの要素を考慮して侵害度を考え、その危険度に合わせたポライトネスが重要になるというわけだ。たとえ力関係や距離が近くても、著しく文化的に許容されていない行為の場合は、侵害度が高いということがありうる。ポライトネスの戦略については次の項目で扱う。
・特に参考にしたページ
宇佐美まゆみ「談話のポライトネス」,18p
無修辞直言ストラテジーとは
【1】無修辞直言ストラテジー(without redressive action,baldly):フェイス侵害の軽減行為を行わず、直接的な言語行動をとるストラテジー(戦略)。
例:相手が車に轢かれそうな場合、物を落としそうな場合など、「気をつけて!!」と直接的に述べるようなケース。緊急の場合など、簡潔に物事を述べたほうが良い場合に適用されるという。
たしかに比喩を使ったり、親しみを込めたり、丁寧な言葉を使ったりしていることで相手が解釈に手間取ることは不適切だといえる(わざと丁寧に言って、嫌味なのかなと相手のフェイスを脅かす)。
・特に参考にしたページ
宇佐美まゆみ「談話のポライトネス」,18-20p
ポジティブ・ポライトネスストラテジーとは
【2】ポジティブ・ポライトネスストラテジー:相手のポジティブ・フェイス(認められたい欲求)に配慮するストラテジーのこと。
ブラウンらは15の下位グループに分けてこの戦略を提唱している。
【PP戦略1】相手の関心事・欲求・必要・所有物に注意を払う
例:「この前のレポート、すごく頑張ってましたよね。結果楽しみですね。」
【PP戦略2】相手への興味・賛同・共感を大げさに表す
例:「それ聞いただけでワクワクします!もっと教えてください!」
【PP戦略3】相手の関心を高めるように表現する
例:「あなたが参加してくれたら、もっと良い企画になると思う!」
【PP戦略4】仲間内の呼称や内輪の符号を使う
「博士、スマホの設定をお願い。(博士=電子機器に詳しい人)」
【PP戦略5】同意を得られるように表現する
例:「明日バタバタしそうだよな。今日のうちに資料のまとめ、一緒にやらない?」
【PP戦略6】不一致を避けるように表現する
例:「考えは同じだと思うんだ。だから一緒にこれ仕上げられたら嬉しいんだけど。」
【PP戦略7】共通点があることを前提/喚起/主張する
例:「地元一緒だから頼りたくなるんだよね。この荷物持ってくれる?」
【PP戦略8】冗談を言う
例:「ちょっとだけ魔法かけてよ。このプリンター直して!」
【PP戦略9】相手の欲求を理解し、気遣っていることを示す
例:「疲れているところ申し訳ないのですが、この書類だけ先に見てもらえると本当に助かります。」
【PP戦略10】申し出や約束をする
例:「急ぎの仕事をお願いしてしまうので、終わったらコーヒーをおごりますね。」
【PP戦略11】楽観的に見通して述べる
例:「ちょっとした確認だけなので、見ていただけますか?」
【PP戦略12】自分と相手を同じ活動に巻き込む
例:「一緒に出席しませんか?その方が心強いです。」
【PP戦略13】理由を与える/理由を尋ねる
例:「お客様が来るので、一緒に整理してもらえませんか?」
【PP戦略14】相互依存(持ちつ持たれつ)を前提/主張する
例:「引っ越しのときは絶対俺も手伝うから、日曜少しだけ助けてくれない?」
【PP戦略15】相手に贈り物(物・共感・理解・協力など)を与える
例:「差し入れ持ってきた!エネルギー補給したら、一緒にプレゼンの練習しない?」
・特に参考にしたページ
南部みゆき「ポライトネス研究における概念と理論的背景のまとめ」[2010],215p
ネガティブ・ポライトネスストラテジー
【3】ネガティブ・ポライトネスストラテジー:相手のネガティブ・フェイス(干渉されたくない欲求)に配慮するストラテジーのこと。
ブラウンらは10の下位グループに分けてこの戦略を提唱している。
【NP戦略1】慣例として認められる程度で遠まわしに言う
例:「この書類、誰か詳しい方がいらっしゃればいいんですけど…」(あなたに見てほしいということを伝えている)
【NP戦略2】疑問形や曖昧化表現を用いる
例:「席、こちらに移動しても大丈夫ですかね…?」
【NP戦略3】悲観的に述べて相手が断りやすい形にする
例:「こんなことお願いして嫌われるかもしれないんですけど…できたらで大丈夫です。」
【NP戦略4】相手の負担をできる限り小さくする
例:「ほんの数分だけで大丈夫ですので、お時間いただけますか。」
【NP戦略5】相手に丁寧な敬意を示す
例:「差し支えなければで構いませんので、ご意見を伺えればと存じます。」
【NP戦略6】配慮として謝罪を添える
例:「〇〇さん、申し訳ないのですが、この書類を今日中に確認していただけますか。」
【NP戦略7】相手や自分を直接指さず、距離を置いた表現にする。
例:「これをやってくれる人がいると、とても助かります(誰がとは言わない)。」
【NP戦略8】要求行為を一般的な規範として述べる
例:「会議では時間厳守が基本ですので、定刻までにお越しいただけると助かります。」
【NP戦略9】動詞を名詞化して距離を置く
例:「資料のご確認をお願いしてもよろしいでしょうか」(確認する(動詞)→「確認(名詞)」をお願いする)
【NP戦略10】自分が借りを負う形、または相手に借りを負わせない形にする
例:「ご無理をお願いして申し訳ないのですが…。」
・特に参考にしたページ
南部みゆき「ポライトネス研究における概念と理論的背景のまとめ」[2010],217p
オフレコードストラテジー
【4】オフレコードストラテジー:伝達意図を明示的に表さない、ほのめかすストラテジーのこと。
ブラウンらは15の下位グループに分けてこの戦略を提唱している。ちなみに、グライスの会話の格率における「様態の原理(できる限り曖昧にして伝達しない)」に反していることをブラウンらは認めている。大事なのは直接言うよりもマシな戦略ということであり、相手のフェイスを侵害せざるをえない状況だという点である。
【OR戦略1】暗示するように表現する
例:「この荷物、けっこう重いですね…。」(=運ぶのを手伝ってほしいという暗示)
【OR戦略2】相手が連想できる手掛かりを与える
例:「あ…プリンタのインクってもうあったかな…。」(=補充してほしいという依頼を連想させる)
【OR戦略3】前提として語る
例:「じゃあ、あなたがこの企画をまとめてくれるってことで進めていいよね?」
【OR戦略4】控えめに表現する
例:「もし時間あったらでいいんだけど…。」(本当は今すぐ手伝ってほしい)
【OR戦略5】必要以上に大げさに言う
例:「もう腕が折れそうなくらい重いんだけど…この荷物…。」
【OR戦略6】同じ語を重複させて表現する
例:「遠い遠い…家まで帰れる気がしない…。」(車で送ってほしい)
【OR戦略7】矛盾した表現を用いる
例:「急ぎじゃないけど、できればすぐに確認して。」
【OR戦略8】皮肉として述べる
例:「さすがにこのくらいできるよね?」
【OR戦略9】比喩的に表現する
例:「この報告書、嵐の中の灯台のように整えてくれると助かる。」
【OR戦略10】答えを求めない問いかけを用いる
例:「この案件、どう処理したらいいんだろうね?」
【OR戦略11】両義的に解釈できる表現を用いる
例:「こうするのが正しいのかもしれないね。」(するのが正しいとも、正しくないとも解釈できる)
【OR戦略12】曖昧な表現を用いる
例:「ちょっと元気すぎるね。」(騒がしいから静かにしてほしい)
【OR戦略13】過剰に一般化して述べる
例:「大学生はみんなノートを貸し合うものだから、今日だけ貸してくれない?」
【OR戦略14】相手がその場にいないように表現する
例:「だれかがこの書類、チェックしてくれたらいいなぁ。」
【OR戦略15】文を最後まで言わず、省略して表現する
例:「もしよければ、この書類を…。」
・特に参考にしたページ
南部みゆき「ポライトネス研究における概念と理論的背景のまとめ」[2010],218p
フェイス侵害行為をしない
たとえばお金を貸してほしいときに、「頼まない」という戦略をとるということである。したがって、なにか具体的なコミュニケーションをするわけではない(ただし、なにかをしないことも無意味ではなく、意味、メッセージ性をもつという点は重要になる)。
一方で、「依頼に関する発話や行動をしないこと」が、相手にとっての対人関係の良い距離となり、結果的に自発的に手伝ってくれることも考えられる。
ただし、ブラウンらのポライトネス理論は主に「話し手の観点」が中心となり、「受け手の観点」に乏しいと批判されることがある。
たとえば話し手のフェイス侵害度の見積もりと受け手のフェイス侵害度の見積もりが同じであるとは限らない。共通の知識をもっているとも限らない。相互作用的に、受け手がどういう状態なのかをよく加味した上で、どういう事態が生じているのかを理解する必要があるのかもしれない。たとえば受け手はどういう場合に侵害行為を受け入れ、どういう戦略があるのかなどである。
・特に参考にしたページ
宇佐美まゆみ「談話のポライトネス」,18-20p
どういうときに、どういう戦略をとるべきか
| フェイス侵害度 | 選択されやすいストラテジー | 特徴 |
|---|---|---|
| 極めて高い | フェイス侵害行為をしない | 依頼や約束などをそもそもしない。フェイス侵害行為を行わない。 |
| 高い | オフレコード | ほのめかし等、意図を曖昧にする。非明示的な軽減行為。 |
| 中程度 | ネガティブ・ポライトネス | 断れる余地、距離を保つ。明示的な軽減行為。 |
| やや低い | ポジティブ・ポライトネス | 仲間意識、賞賛、親しみ。明示的な軽減行為。 |
| 極めて低い | 無修辞直言 | 緊急時などにおいて、簡潔に直接言う。明示的・非明示的な軽減行為を行わない。 |
フェイス侵害度と選択される戦略を対応させた表を作るとこのようになる。
ブラウンらによれば、言語行為のほとんどには多かれ少なかれフェイスを侵害する危険性があるという。
たとえば依頼行為は受け手のネガティブ・フェイスが脅かされる危険性があり、非難行為には受け手のポジティブ・フェイスが脅かされる危険性がある。他にも、謝罪行為では話し手のポジティブ・フェイスが脅かされる可能性があるという。脅かす可能性が高ければ高いほど、ぼかしたり、そもそも脅かす行為をしないという選択肢が視野に入ってくる。
たとえば我々は「お金を貸してほしい」という依頼をほとんどの人間関係において「しない」という戦略をとっている。もちろん、「最近水道代止まったんだよね・・・」のようにぼかしたりして依頼する人もいるだろう。
また、お金を借りたいと発話することによって、話し手もまた自尊心(フェイス)が傷ついているかもしれない。
その意味で、話し手のポジティブ・ポライトネスが傷つく危険性と、受け手のネガティブ・ポライトネスが傷つく危険性という2つの要素を考慮する必要があるだろう。
「知人にお金を借りなくて済んだ」というニュアンスの中には、「体裁(お金を無心したりしないまともな自分)を保てた」という、ポライトネスの維持があると考えるとわかりやすい。
・特に参考にしたページ
宇佐美まゆみ「談話のポライトネス」,20-21p
ポライトネスの具体例、実証研究
「冗談」がポライトネスになる例
言語学者の大津友美さんは、若い女性同士の親しい友人関係における会話を対象に分析を行ったという。分析の目的は、「遊びとしての対立行動」を通して、「親密な関係」がどのように形成されるかを考察するためだという。
ブラウンらは、冗談をポジティブ・ポライトネスストラテジーの1つに位置づけている。
冗談は「背景知識や価値観の共有」が前提であり、冗談を発話することでその共有を表示できるから対人関係を円滑にする機能があるというわけだ。
大津さんはブラウンらが背景知識のあり方や、冗談が冗談とみなされる過程を掘り下げていないことを指摘し、その掘り下げを試みている。
たとえば、わざと誤ったことや理不尽なことを言い、相手に対立を表明させることで「遊びとしての対立」が開始するという。
たとえば、Aが「カニを食べに行く」と発話し、Bが「釣りに行くんじゃないの?」と笑いながら発話したとする。この場合、AとBの間では、カニを食べに行くとは釣りをするという意味ではなく、店で食べるという了解がある。Bは「冗談」を述べているのである。
通常の理解とはわざと異なる理解をすることは、形式的には「対立」を表明することになる。しかしここで敵対関係は生じていない。むしろ親密関係が生じているといえる。
なぜなら、「カニを釣りに行くのか」と本気で言っているわけではないからだ。本気で対立をしたいわけではなく、対立の遊び、対立ごっこをしたいとお互いが了解できているのである。上位のメッセージ(言語外の、これは冗談だよ)の中で、下位のメッセージ(言語内の、カニを釣りに行くのか)が行われているというわけだ。YESと言いながらNOと言っているわけになる(この意味では矛盾的なポライトネスだともいえるだろう)。
冗談が親しさを構成するのであり、もっといえば、冗談をいうことこそがその場におけるポライトネスであり、マナーであるとさえいえるかもしれない。芸人や関西人では、とくにその要素が他の人達とくらべて強いかもしれない。
単に、「そうなんだ。カニを食べに店に行くのか」だと、親しさがお互いに生じにくいのだろう。もちろん、具体的な人間関係や状況、前後の文脈など、場面によってポライトネスは変わってくるだろう。たとえば葬式に行った帰りに友人に冗談を言うことは、ポライトネスとして機能しにくいといえる。
大津さんは、遊びがいかにして遊びと聞き手に了解されるかの分析も行っている(「これは遊びだというメタメッセージをいかにして発信するか」)。
たとえば、笑いながら言う、発話を繰り返す、韻律の操作、感動詞の使用などが挙げられている。
・特に参考にしたページ
論文2: 南部みゆき「ポライトネス研究における概念と理論的背景のまとめ」,52p
得られる教訓
ポライトネス理論から得られる教訓
我々の多くは、コミュニケーションにおいて相手に配慮すること、尊厳を傷つけないこと、礼儀が大事なことは理解している。そんなあたりまえのことを言われても、多くの人はあまり役立たない。
大事なのは、コミュニケーションにおいて相手のフェイスを脅かさないような要素とは何かを理論的に言語化し、把握することである。ポライトネス理論によってそれらを知ることができたのは良い教訓になった。
我々は理論を使う前に、理論を適用する状況について正しく認識する必要がある。道具だけがよくても、適した状況判断ができなければ使いこなせない。
たとえば誰かに依頼をするとき、相手との親密度、相手との力関係、そして行為の負担度をきちんと把握することは意外と難しい。
この3つの要素は、自分や相手の個々の要素だけではなく、2人が作り出してきた文脈も関わってくる。他の人の仕事は忙しいのか、外の天候はどうか、休日の前なのか、葬式の帰りなのか、恋人に振られた直後なのか、学校なのか、家庭なのか、第三者はいるのかなどなどさまざまな状況を考慮する必要がある。その複雑で総合的な考慮の上で、侵害度が認識できれば、それに応じたストラテジーが選ばれるといえる。
戦略(ストラテジー)という言葉は相手を都合の良いもののように操作するようなイメージをもってしまうので、個人的にはあまり好きではない(戦争のメタファーでもある)。「方法」でいいのではないかと思う。
大事なのは「配慮」や「バランス」という言葉だろう。自分の利益を常にズル賢く最大化するためにポライトネスが必要なのではなく、お互いの利益がアンバランスにならないためにポライトネスが必要なのだと考えていくほうが私は望ましいと考える。
それゆえに、ポライトネス理論をあまりにも狭義的に、「相手を手段化するための便利なツール」と考えてしまうと、それこそより広い意味での「世界へのポライトネス」に欠ける行為だろう。
また、そうした行為は往々にして下心が透けて見えてしまうものであり、結果としても上手くいくとは限らない。あからさますぎる太鼓持ちに対する嫌悪感などはこの類いなのかもしれない。
小手先のテクニックはバランスを調整する飾りのようなものであり、大事なのは日々、自分がどのような対人関係を具体的に積み重ねていくかだといえる。
なにも努力せず、交友もそれほど深めもしない人が、依頼するときだけ丁寧になったり冗談を言ったりしても上手くいきにくい。そうではない場合より、マシなだけである。
ポライトネス理論を依頼時の小手先のテクニックやマナーとして消化するのではなく、対人関係全般における配慮のルールとして消化することもできる。ブラウンらがいうように、「あらゆる発話行為(これは依頼や非難以外のすべての行為を含んでいる)」にはフェイスを侵害する危険性があるので、ポライトネスを常にグラデーションを帯びて考慮するべきだということだ。
頼み事があるから配慮するのではなく、頼み事がなくても配慮できるようになっていくことこそ、より土台としてのポライトネスを構築することになるだろう。
土台のポライトネスがあるからこそ、その表面のポライトネスが栄養を獲得し、実際に花を咲かせるのであり、表面は最後の一押しにすぎない。
もちろん、そのような土台を築けない場合、たとえば初対面の場合や、一時的な関わりなども社会では多い。そのときは最低限の、よりマシな形式的な配慮のルールを知っておくことは望ましいといえる。「普通はこういう場合、これが望ましい」という範例を多くもっているほうが便利だろう。この範例を踏まえて、適した選択を自分で考えて作っていけばいいのである。
参考文献
汎用文献
社会心理学 補訂版 (New Liberal Arts Selection)
社会心理学 補訂版 (New Liberal Arts Selection)
デイヴィッド・マクレイニー (著), 安原 和見 (翻訳) 「思考のトラップ 脳があなたをダマす48のやり方」
デイヴィッド・マクレイニー (著), 安原 和見 (翻訳) 「思考のトラップ 脳があなたをダマす48のやり方」
亀田 達也(監修)「眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学」
亀田 達也(監修)「眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学」
参考論文
宇佐美まゆみ「談話のポライトネス」[2001][URL]
宇佐美 まゆみ「ポライトネス理論研究のフロンティア : ポライトネス理論研究の課題とディスコース・ポライトネス理論(<特集>敬語研究のフロンティア)」[2008][URL]
宇佐美 まゆみ「ポライトネス理論と対人コミュニケーション研究」[2002][URL]
南部みゆき「ポライトネス研究における概念と理論的背景のまとめ」[2010][URL]
大津 友美「親しい友人同士の会話におけるポジティプ・ポライトネス : 「遊び」としての対立行動に注目して」[2004][URL]
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