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第一回:哲学を学ぶ
まえおき
1:駆け足で哲学を学んでいきます。あまり深堀りはしません。広く、浅く進んでいきます。私は専門家ではありません。
2:プラトンとアリストテレスで一度立ち止まり、デカルト、ニュートン、ロック、カントでもまた立ち止まります。それ以外は基本的に広く、浅くです。
3:できるだけ「客観的なもの(辞書や辞典に類するもの、書物に類するもの)」と「主観的なもの(私が考察したものや出典のないもの)」を分けるように努力します。基本的に出典のないものは全て主観的な考察が含まれるている可能性があります。ただし、出典は基本的な用語の定義や説明のみに限定します。数字で出典がついていないものは参考文献内の内容、もしくは私の主観的な考察になります。
4:この記事の目的:(1)記事にしてまとめることで自分の理解を促進する (2)自分が学んだことを共有したい (3)偏在している知識をできるだけひとつの場所に編集してまとめておきたい
キーワード
- 一元論:「事象の哲学的説明において、唯一の究極的な存在、原理、概念、方法などを考える立場や傾向をいう。単元論とも呼ばれる。二元論や多元論に対立する言葉」*1
- 二元論: 「哲学で、互いに対立する二つの原理、たとえば、精神と物質、悟性と感性、本体と現象などを立て、宇宙やその他すべてのことを、この二つの原理で説明しようとする立場」*2
- アルケー:古代哲学者、とくにソクラテス以前は世界の万物の根源(アルケー)とはなにか?という問いに答えることが重要だった(世界とはなにか?)。アルケーという言葉を最初に用いたのはアナクシマンドロス*6。
- 存在:「世界がなにでできているか」についての問題。(存在の原理)*5。世界の存在を構成する「アルケー」*9。アルケー≒原理。
- 生成:「世界とは何によって動いているか」についての問題。(生成の原理)*5。世界が生成変化する「動因」*9。哲学で、静止、不変、存在に対する概念で物がその状態を変えて、他の状態に変化する過程、あるいは非存在が存在となる過程をいう*15。世界の生成を構成する「アルケー」。
- 自然科学者(ピュシコイ):「世界の存在と生成の原理を科学的に探求しようとしたもの、知を愛するもの(ピロソポス)」*6
- 物活論:物質そのものに活力,生命,魂を認める思想上の立場*7
- <神々の生成の物語(テオゴニア)>と<宇宙生成論(コスモゴニア)>
- 自然哲学:自然の本性を合理的に探求しようとする哲学(タレス、アナクシマンドロス、アナクシメネスなど)*11
動画での解説・説明
・この記事のわかりやすい「概要・要約・要旨・まとめ」はyoutubeの動画の冒頭にありますのでぜひ参照してください。
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タレス
・タレス(紀元前624~紀元前456年頃):「古代ギリシャの哲学者。ギリシャ七賢人の一人で、最初の哲学者ともいわれている。ミレトスの出身。ミレトス学派(イオニア派、イオニア学派)の祖。万物の元(アルケー)は水であると考えた。天文学や数学にも通じていて、観測したデータから日食や翌年の穀物の収穫を予言した」*3。小熊座の発見者*6。
・「万物の根源は水である」:「タレスは万物の根源(アルケー)は『水』からできていると考えた。すべてのものは『水』から『変化』したものである」*3。「大地は水の上に浮かんでいると考えた。」*4
神話的思考から科学的思考へ
・テオゴニア(ておごにあ,Theogonia):「前8世紀頃のギリシアの詩人ヘシオドスの叙事詩。「神統記」とも訳される。神々の生成の物語」*16。
神話的思考とは、いわゆる「ギリシア神話」のことです。タレスが生まれるよりもずっと前にギリシア神話というものはあったのです。
たとえばヘシオドス(紀元前700年頃)という詩人は『神統記』という叙事詩を書きました。それによれば、まず世界にはカオス(混沌)が生じたそうです。その次にガイア(大地)、タルタロス(冥界)、エロース(愛)が誕生し、カオスからはエレボス(冥界)とニュクス(夜)が生まれ、ニュクスとエレボスが交わり、ヘーメラー(昼)とアイテール(清明な大気)が生まれたそうです。
さらにガイアがウラノス(天空)とポントス(海)を生み、ガイアとウラノスからはクロノスなどたくさんのティーターン十二神が生まれます。そしてクロノスとレアーから有名なハーデースやゼウスが生まれます。「人間は土から生まれた」という考えをギリシア人はもっていたそうです。つまり神話的に言えば、人間はガイアから生まれたという理解ができます。
このように、「世界がなにでできているか」という原理が神話的思考によって説明されています。このような神話による世界誕生説を、「宇宙開闢説(うちゅうかいびゃくせつ)」といいます。聖書の創世記、日本神話である「国生み神話」も同じように神話によって世界が誕生が語られています。あるいは「神々の生成の物語(テオゴニア)」から「宇宙生成論(コスモゴニア)」へともいいます。
タレスはこのような「神話的思考」ではなく、「科学的な思考」へと転回していった人物です。超越的な神や精霊などによって世界の成り立ちを説明するのではなく、万物の原理であり原物質である「水」から説明しようとしたのです。
世界の究極的な原理についてはじめて理論的・哲学的な説明を与えたのがタレスということです*6。
世界とはなにか?都市国家とは
古代のギリシアは都市国家(ポリス)の集まりだったそうです。タレスの時代的にはヘレニズム時代(紀元前323~紀元前30年)の少し前、古典時代(紀元前508年~紀元前323年)ですかね。
古代のギリシアには様々な都市国家があります。タレスが活動していたイオニアも都市国家のひとつです。他にもアテネ、スパルタなど有名な都市国家があります。紀元前4世紀にペルシャとギリシャの間にあったマケドニア王国がギリシャを破り、ギリシア世界を支配するようになります。タレスの出身であるミレトスはイオニア地方の町であり、ギリシア人の植民地らしいです。
支配されるということは、他の民族との交流が盛んになるということでもあります。つまり、異文化の世界の人々と交流することになるのです。
今までの神話的な説明では、異文化の人たちは納得しない場合があります。自分たちの神々のほうが正しい、というように宗教的な話になってしまうからです。
そうした時代背景を元に、異文化の人たちに対しても納得させるような「世界の説明」が必要となってきました。そこで、タレスが「世界は水からできている」と説明したわけです。水は異文化の人たちにとっても理解できるものであり、理性(ロゴス)を使って討論できる対象になりえたのです。これがいわゆる「神話的な思考」から「科学的な思考」への萌芽というわけです。主観的なものから客観的なものへの以降とも読み取ることができます。
「万物の根源は水(ヒュドール)である」とは?
残念なことに、タレスがどのような理由でアルケーを水であると考えたかは明らかではないそうです*6。
アリストテレスが後にタレスについて記述したものがあるをすこし紹介します。
- 水が水蒸気になる、カーバイトに水をかけると火が生じるなどの観察から*3
- 種子からはいろいろな形のものが生まれるが、種子が育つためには水が不可欠であるという観察から*3
- アリストテレス「大地は水の上に浮かんでいる『形而上学』」
たしかにそうかもしれない、とは思います。小坂さんの解説でも、”一般論”として、水はすべての利用物や種子は水分を保有していて、水それ自体も可変的で流動的であるからといったように説明しています。たしかに水分がまったくない植物というものはほとんどありませんよね。新生児の場合は体重の約80%も身体が水でできているそうです。成人では60~65%だそうです。水なしでは5日も生きていけないというほど、水は我々生き物にとって重要なものです。
水は可変的で流動的である、というのもたしかにそうです。どのような場所にも存在し、温めれば水蒸気になり、冷やせば氷になり、生成と消滅を繰り返すように見えます。
水は「存在」としては不変不動不滅でありつつ、「生成」としては変動や消滅を繰り返しています。
タレスの物活論について
・物活論(ぶっかつろん,hylozoism):「物質がそれ自体のうちに生命を備えていて生動するという説。原語のヒュロツォイスムhylozoismは、ギリシア語の質料を意味するヒューレーhlēと生命を意味するゾーエーzōēの合成語で、質料生動論の意味。能動的な原理(始動因)である精神や霊魂が、受動的な原理(質料因)である物質から区別される以前の、初期の哲学者が物活論者といわれる。たとえば、タレスが、磁石が鉄を引き付けるのは魂をもっているからだとし、「万物は神々に満ちている」といったのはその一例である」*7。
こちらも同じくアリストテレスが伝えたタレスの内容で、「磁石は鉄を動かすがゆえに魂(生命)をもつ(『霊魂論』)」というものです。同じように、水も生命の原理のようなものを有しているというわけです。
タレスは物質的なものと精神的なものが明確に区別されていなかったというわけですね。つまり、二元論ではなく一元論的な思想だったというわけです。
タレスの考えは一元論
・一元論(いちげんろん):事象の哲学的説明において、唯一の究極的な存在、原理、概念、方法などを考える立場や傾向*1
・二元論:(にげんろん):哲学で、互いに対立する二つの原理、たとえば、精神と物質、悟性と感性、本体と現象などを立て、宇宙やその他すべてのことを、この二つの原理で説明しようとする立場*2
存在の原理も、生成の原理も全て「水」から説明している。両者を明確に区別していないことが特徴です。
(例)存在の原理としての水は不生・不滅・不変ですがが、生成の原理としての水は生成し、消滅し、変化しています。変わらないのに、変わるというのは矛盾しているように一見思えますよね。
後々、パルメニデスという人が「有る(在る)ものは不生・不滅・不変」であり、変化したり消滅したりして見えるのは理性ではなく感覚で見ているからだ、というような主張をします。これはタレスの存在の原理と生成の原理の矛盾に対して、あるのは存在の原理だけだ、といっているようなものです。水が変化しているように見えても、それは感覚的なもので、「在るもの」は常に「在るもの」のままであるということですね。有名な言葉としては、「あるものはある、ないものはない」というものがあります。
また、パルメニデスとは逆に「万物は流転する」とヘラクレイトスという人が言いました。この人によれば、あるのは「変化(生成)」だけで、変わらないものや不滅のものなんてないという主張です。パルメニデスとは対照的ですね。
ミレトス学派のが存在の原理と生成の原理を区別せずに考えたのに対して、パルメニデスは生成の原理を否定して存在の原理を重視し、ヘラクレイトスは存在の原理を否定して生成の原理を重視したといえます。詳細はこのように単純ではないのですが、簡潔に言えばそうなります。
後に多元論者が出てきて、最後にプラトンとアリストテレスが出てきて古代の哲学の全体がつかめます。先取りすると、プラトンは「水が不変であるように見える」というものはイデアの領域に、「水が変化しているように見える」というものは現象の領域に分けることで統一を図ろうとしたのです。このような考え方を二世界説といいます。あるいは二元論です。
つまりタレスの一元論的な考えから始まり、プラトンの二元論的な考えへ移行していくのが古代の哲学の全体的な流れです。
次回はタレスの弟子であるアナクシマンドロスを解説したいと思います。
(コラム)タレスのエピソード
・天体を観測しようとして穴に落ちてしまったタレスが、老婆から「あなたは自分の足元の様子もわからないように、天上のことがわかると思うか」とたしなめられた*6
・オリーブの豊作を予測し、オリーブ搾油機を借りしめて大儲けした*6
出典
- 一元論(日本大百科全書)
- 二元論(コトバンク)
- 「ビジュアル図解シリーズ、哲学」、PHP、28-29P
- タレス(コトバンク)
- 「プラトンのイデアについて」小坂国継(URL)
- 「初期ギリシア哲学者の実在感」小坂国継(URL)
- 物活論(コトバンク)
- 「ビジュアル図解シリーズ、哲学」、PHP、30-31P
- 「本当に分かる哲学」、山竹伸二、日本実業出版社、45P
- アナクシマンドロス(コトバンク)
- 「哲学用語図鑑」、田中正人、プレジデント社、26P
- 「本当に分かる哲学」、山竹伸二、日本実業出版社、43P
- アナクシメネス(コトバンク)
- プネウマ(コトバンク)
- 日本国語大百科事典
- テオゴニア(コトバンク)
参考文献
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