【1ワード社会学第十三回(36)】ハーバーマスの「システムの合理化」

ユルゲン・ハーバーマス

動画での説明

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はじめに

社会学とはなにか

社会学とは、「社会を対象とする学問」のことである。そして社会とは基本的に「人々の社会的行為の相互作用の集まり」を意味する。

なぜ社会学が存在するのかについては多種多様な立場があるが、根本的には「社会を分析し、よりよい社会へ導くため」だといえる。社会とはなにか、どう変動していくのかという事実判断やどうあるべきかという価値判断の両方のバランスをとる必要のある学問である。

【基礎社会学第三六回(1)】エミール・デュルケムの社会学とはなにか、学ぶ意味や価値はあるのか

この動画チャンネルシリーズは創造発見学に位置づけられている。要するに、アイデアをひらめくための情報を学ぼうというわけである。ビジネス、友人関係、学業、さまざまなものにそれぞれ活かしてほしい。

できるだけ1ワードに説明する対象を絞っていく。

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(準備中)

(7)[E]システム関連

[7-3]ハーバーマスの「システムの合理化」

ハーバーマスの「システムの合理化」とはなにか、意味、定義、わかりやすく解説

POINT

システムの合理化技術的なシステムの生産性、操作性、制御性が増大すること。主な機能は「物質的再生産」である。

生活世界の合理化においては「諸個人の意思疎通を円滑にする」という点が重要であり、システムの合理化においては「物質的再生産を円滑にする」という点が重要だということになる。後で扱うが、別の用語で言えばそれぞれ社会統合、システム統合となる。

ハーバーマスにおいて、こうした技術システムの要素は言語によるコミュニケーションや意識といったものではない。

社会は生活システム(非システム)とシステムの2つの側面からなり、さらにシステム領域には経済システムや政治システムといったサブシステムがあるという。それぞれの制御メディアは貨幣や権力という点はルーマンと同じである。

たとえば経済では「貨幣」というメディアを通した「支払い」という(非言語的な)作動が中心となっている。我々が無言でレジで買い物をするイメージ、自販機でお金を入れるイメージをするとわかりやすい。

「言語」というメディアを通した「発話」が中心の生活世界とは明確に区別されている(ルーマンは言語以外にもありうるし、対等でなくともコミュニケーションは調整されることがありうることを重視するかもしれない。対等性や言語性をかならずしも理想として位置づけないのであり、他の等価な可能性に開けている)。

・特に参考にしたページ

「自己・他者・関係」(社会学ベーシックス),世界思想社,第一刷,244-245p

中岡成文「ハーバーマス」,講談社,160p

ルーマンの「複雑性の縮減」とはなにか、意味、定義、わかりやすく解説

ルーマンの用語でいうと、システムの合理化は「複雑性の縮減」と重なってくる。複雑性とはざっくりいえば「同時に選択できない選択肢の数の度合い」を意味する。

たとえばランチタイムに行く店の選択肢が10通りより100通りあるほうが複雑性が高く、かつ同時に複数の選択肢をとることはできないだろう。しかし予算や時間、交通のアクセス(という観点)によってその選択肢は絞られるかもしれない(複雑性の縮減)。

ただし、近代において複雑性は大幅に縮減されるが、しかし大幅に複雑性は増大しているという点は抑えておく必要がある。これは矛盾ではなく、抽象度が異なるという点に注意する必要がある。部分をスッキリさせてしまったゆえに全体がスッキリしないようなイメージ。たとえば貨幣を出すか/出さないかという選択肢のシンプルさによって、取引相手や商品が大幅に増える。

たとえばお金を出せば物を買えるという意味で複雑性は縮減されているが、「お金を出せば物を買えるという仕組み」のレベルでは選択肢が膨大に増加し、複雑性は増大している。われわれのほとんどは円の価値が下がったり上がったりする理由をもはや把握できない。選ばれうる選択肢が何千、何万、とあり、しかもそれらは時系列的に組み合わさっているのである。

選択肢が増大するようになると、選ばれない選択肢が増える。しかし、選ばれなかった選択肢は消失するわけではなく潜在しているのである(偶発性、ほかでありうる可能性の増大)。その意味で複雑性は増大するが、しかしある選択肢がシステマティックに選ばれるようになるという意味で複雑性は縮減されているのである。可能性の水準では増大し、期待の水準では縮減されているという言い方もできそうだ。

昔は農家の息子は農家になるしかなかった。現代では高校に行くか、別のことをするかといった「選択肢」は増大しているが、多くの人(99%)は結局は高校に行こうとする、あるいは高校に行かせるのである。

そして選択肢、いわばシステム内の要素の可能な組み合わせが豊富なシステムほど、適応能力、柔軟性が高いというポジティブな側面がある。社会学は新たな理論を通して現象を一定の枠組みで観察しようとするという意味で複雑性を縮減しているが、それゆえに、新しい解釈や選択肢が増大するのであり、複雑性が増大しているともいえる。

たとえば鉄しか生産できない会社は鉄が不要になったときに淘汰されるが、鉄も銅もプラスチックも生産する会社、あるいは生産可能な会社は淘汰されにくく、需要に柔軟に対応できる。

ただし社会全体でみると、予測が困難、意味が不安定、相互依存リスク、制御不可能性などのネガティブな側面もある。そしてこのネガティブな側面は構造的な帰結であり、解決することは難しい。

たとえば金融市場が崩壊しただけで、それと相互依存的なシステムは深刻なダメージを受けるのであり、その社会と相互依存的な他の社会も深刻なダメージを受けるのである。ルーマンは社会全体を調整できるような特権的、中心的なシステムの存在を機能分化した社会に認めていない(政治システムにも期待できない)。たとえば社会全体に関わる環境問題に対応しようとしても、政治は経済のせいにして、経済は政治のせいにしようとするといったことが現実的に生じている。

行政システムにおいては、法規や命令体系がきっちりしており、話し合いよりも手続きや権限が重要となる。話し合いは本質ではなく、所定の手続きをふめばいいのである。

そういう決まりになっていまして・・・」というお役所仕事的なセリフをよくきくだろう。ルールを大事にするか、現場の判断を大事にするかといった葛藤はよく映画やドラマのテーマとなっている。行政官が自分の頭で考えて仕事を処理しているというより、ロボットのように決められた所定の作業を処理しているというイメージが「システムの合理化」に近い。効率性を求めていくとそうなるのである。店員もロボットのように客を処理し、客もまた店員をロボットのようにみなす。

たとえばある許可申請がその許可条件に満たすかどうかを形式的なルールに基づいて処理する場合もわかりやすい。

「かわいそうだから許可する」、「お金持ちだから許可する」、「きわめて非合理的でも伝統だから許可する」といった人間的なコミュニケーションは基本的に許されていない。たとえば信号を青にするか赤にするかが機械の気分で決まるわけではないのと同じであり、システム的に決まっているのである。

応用社会学第一回:「社会システム理論は楽しい」(前編)

応用社会学第一回:「社会システム理論は楽しい」(中編)

応用社会学第一回:「社会システム理論は楽しい」(後編)

「システムの合理化」そのものは病理的な現象ではない

ハーバーマスによると、システムの合理化は必ずしもそれ自体は病理的な現象であるわけではないという。病理的な現象は生活世界の領域にシステムが越境するときに生じるからである(生活世界の植民地化については後で扱う)。「システムをぶっ壊せ」と安直に、非合理的な根拠に基づいて革命を志向するような青少年たちをハーバーマスは批判的に見ている。

では、システムの合理化における健全な側面とは具体的になにが考えられているのだろうか。

システムの合理化が健全であるためには、生活世界におけるコミュニケーションを「侵食」せずに、むしろ「支える」ものである必要がある。利潤や支配の拡大だけを過剰に目的にせず、社会の安定、安全や公平といった指標を重視する必要がある。

ハーバーマスはそうした例として、「貨幣が言語に代わって取引を調整することを可能にするケース」をあげている。

いうまでもなく、貨幣は近代特有のメディアではない。紀元前7世紀頃にはすでにリュディアなどで貨幣が鋳造され、流通していたという。

近代において重要なのは、経済システムが自律した(分化した)という点である。たとえば身分や慣習が取引を規定する側面がつよかったという。「誰が買うのか」という人格的な側面が売買に関係していたのである。しかし近代の経済システムでは基本的に「誰が買うのか」は(多くの場合は)問題にならない。

近代の経済が自律するにつれて、売買をいかにスムーズに行うのかという意味での合理性が近代において高まっている。

需要と供給で価格が決まり、「対話」を個人間で毎回行わなくても標準価格がわかるようになる(たとえば今ではネットなどで調べればすぐに市場の価格がわかる)。他にも、同じ規格の商品を大量生産する仕組みを整え、品質を一定にすることで、品質について「対話」する必要がなくなる。

個人間の信頼関係による「対話」で資金を調達しなくても、銀行制度などを利用して条件さえ満たせば誰でもせずに資金を調達できるようになる。

いままで言語的コミュニケーション(コミュニケーション的行為)で調整しされていたものが、貨幣的コミュニケーションで調整されるようになったというわけである。

ハーバーマスによればこうした貨幣による代替は、「人間の選択の幅」を広げるものであり、「自由の性格の変化」というポジティブな側面を観ることができるという。

たしかに具体的な人間関係においていちいち価格を交渉したり、お金を借りたりするというのは大変である。われわれは銀行員と人格的なやりとりをするわけではなく、単に会社の目的合理性(どれだけ効率的に稼いでいけるのか)を示すことができればよくなった。会社でもプライベートな側面を分けて、経済的な側面においてのみ同僚と関わることでコミュニケーションの衝突が生じにくくなっているかもしれない。

たとえばある宗教に属していない、身分が違うからという理由で価格を高く設定されたり、お金を貸してもらえないケースは「選択の幅が狭い」ものであるといえる。また、Amazonのように知らない相手とも安全に交換できるという意味で「選択肢」も増えているといえる。

たしかに対話が不要という意味で従来からすれば冷たい仕組みではあるが、個人を共同体的な拘束から「解放」するというポジティブな要素がある。

もちろんこうした例は「反省や対話のための合理化」ではなく、「物的な再生産のための合理化」という意味で「生活世界の合理化」とは異なる合理化、つまり「システムの合理化」であるという点には注意する必要がある。

システムの合理化が進展するにつれて、生活世界にも影響を与え、「生活世界の合理化」というポジティブな効果をもたらしている。システム的な考え方がコミュニケーションにおいても発揮されているというイメージである。

さらに、システムの合理化は生活世界の合理化だけではなく、対話をする土台としてインフラの整備、市場の機能、行政の安定といったものももたらしているという意味で、生活世界にポジティブに寄与している。

これらの関係を図にするとこのようなイメージとなる。

・特に参考にしたページ

「自己・他者・関係」(社会学ベーシックス),世界思想社,第一刷,244p

中岡成文「ハーバーマス」,講談社,162p

中岡成文「ハーバーマス」,講談社,184p

カール・マルクスが見逃していた近代的合理化のポジティブな側面

ハーバーマスは、ドイツの哲学者であるマルクスは社会の機能分化(ヘーゲル的にいうと「全体性の喪失」)がポジティブな役割を果たすことを十分に理解、評価できなかったと批判している。

具体的には身分制の解体、契約の自由の成立、市民権の確立、政治参加の可能性の拡大、経済的移動の自由など、新しい可能性が開かれたのである。封建的階級関係は再編成されるという事態を読み取ることができなかったというわけだ。

もちろん、貨幣の登場や資本主義的なシステムの発展は、マルクス的な意味での「物象化」というネガティブな側面ももっていることをハーバーマスは理解している。

物象化とは簡単に言えば、本来は人間同士の社会関係であるものが、あたかもモノとモノの関係であるかのように見えてしまう状態のことである。たとえば労働者は「人」ではなく「人件費」として扱われる。「人間の時間」は「時給」になる。「教育」は「投資」になる。「文化」は「市場価値」になる。「人生の選択」は「費用対効果」が基準となる。この傾向が過度に進めば、生活世界をシステムが侵食するというネガティブな側面につながり、その結果、選択の増加は単なる無規制的状態(アノミー)へと転じてしまう。

ハーバーマスは近代的合理化を、道具的合理化とコミュニケーション的合理化という二つの側面から再解釈した。システムの合理化は主に道具的合理化に位置づけられる。

出来事を「行為、行動、その他の作動」に区別できるとすれば行為及び行動において道具的合理化された出来事があり、作動においても道具的合理化された出来事があるということになる。そしてシステムの合理化にはポジティブな面とネガティブな面の2つの側面があるというわけだ。つまり、「両義的な事態」をハーバーマスは読み取っているわけである。

・特に参考にしたページ

中岡成文「ハーバーマス」,講談社,163p

参考文献リスト

今回の主な文献

J.(ユルゲン) ハーバーマス (著), 河上 倫逸 (翻訳), 平井 俊彦 (翻訳) 「コミュニケイション的行為の理論 上」

J.(ユルゲン) ハーバーマス (著), 河上 倫逸 (翻訳), 平井 俊彦 (翻訳) 「コミュニケイション的行為の理論 上」

中岡成文「ハーバーマス (現代思想の冒険者たちSelect)」

中岡成文「ハーバーマス (現代思想の冒険者たちSelect)」

汎用文献

佐藤俊樹「社会学の方法:その歴史と構造」

佐藤俊樹「社会学の方法:その歴史と構造」

大澤真幸「社会学史」

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新睦人「社会学のあゆみ」

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本当にわかる社会学 フシギなくらい見えてくる

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アンソニー・ギデンズ「社会学」

社会学 第五版

社会学

社会学 新版 (New Liberal Arts Selection)

クロニクル社会学

クロニクル社会学―人と理論の魅力を語る (有斐閣アルマ)

社会学用語図鑑 ―人物と用語でたどる社会学の全体像

社会学用語図鑑 ―人物と用語でたどる社会学の全体像

参考論文

永井彰「コミュニケーション行為理論の論理構造 (上)」(1993)[URL]

永井彰「コミュニケーション行為理論の論理構造 (中)」(1993)[URL]

永井彰「コミュニケーション行為理論の論理構造 (下)」(1993)[URL]

嘉目道人「発語媒介効果の不可逆性とフィクションの倫理的責任」(2020)

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