動画での説明
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はじめに
創造技法の位置づけ
図で整理したものがこちら。
※詳細は第一回や創造発見法の記事で説明している。
問題解決技法を整理すると下の図のようになる。
今回扱う「抽象化」は主に収束技法に位置づけられる。
※発散技法とはアイデアをたくさん出していく技法のこと。収束技法とはアイデアを絞り込む技法。
記事の分割について
記事全体の見取り図
学ぶきっかけ
工学者の畑村洋太郎さんの「思考展開図」(「自分の頭の中にある抽象的な考え」が具体的、構造的に展開され、可視化された図のこと)を学んでいるときに、自分が「抽象と具体という概念を深く理解していない」ことに気づいた。以前、現象学を扱ったときに同じようなテーマがあったので、それを関連づけながら説明しようと考え、この記事を作成した。
一般的な抽象化の理解
POINT抽象化(英:abstraction):一般に、事物または表象からある要素・側面・性質をぬきだして把握すること。
抜き出す行為は「抽出的側面」と「捨象的側面」に分類することができる。たとえばリンゴから「甘さ」だけを抜き出す場合、色やツヤは思考から排除されている。
抽象化は対象の数と比較の有無で便宜的に分類することができると考えた。
複数の対象に共通する属性を抜き出すことを「一般化」という。単一の固有の属性を抜き出すことを「固有化」という。特定の対象の任意の属性を抜き出すことを「特殊化」という。※仮の分類・用語である
現象学における抽象化の例
現象学における「形式化」、「理念化」、「類化」、「形相的還元」などは抽象化の下位分類であると考えることができる。
POINT形式化(独:Formalisierung):対象の具体的な意味を取り去って、形式・関係だけを扱えるようにする抽象化のこと。
POINT理念化(独:Idealisierung):不完全さや有限性を取り去って、完全なものだけを扱えるようにする抽象化のこと。
POINT類化(独:Generalisierung):種から、それを包み込むより上位の類へと本質を一般化して捉える意識の働きのこと。
POINT形相的還元(独:eidetische Reduktion):ある事象内容をもった個体から出発して、空想的な自由変更をつうじて本質を抽出する作業のこと。
たとえば「目の前のポチ(🐶)」や「隣の家のタロウ(🐕️)」から出発して、まだ見ていない犬の個体も含めて想像によって「犬に共通する本質」を抽出する作業は代表的な抽象化であるといえる。
現象学における抽象化は、「エポケー」や「現象学的還元」といった特殊な態度の変更のうえで行われるという点が重要である。
小難しい話を飛ばしていえば、エポケーとは「当たり前の常識や知識、思い込みをいったん遮断して考えてみる態度」のことである。目の前のポチという具体的で現実的な対象から、できるだけ素直に感じたこと、そして疑いにくいと思われるような本質を直観することが重要になる(本質直観という)。これを踏まえたうえで、能動的に形相的還元という思考の操作が行われるのである。
なぜ「抽象と具体」を理解する必要があるのか
思考展開図における抽象と具体の理解
私は最初に畑村洋太郎さんの「思考展開図」という面白い創造支援ツールを社会学に関連づけながら解説していこうと考えていた。
POINT思考展開図:「自分の頭の中にある抽象的な考え」が具体的、構造的に展開され、可視化された図のこと。※工学者の畑村洋太郎さんが提唱している概念。
思考展開図を理解するためには「抽象と具体(具象)」、「機能、機構、構造」という基礎概念を理解する必要がある。
畑村さんの本ではこれらの基礎概念は掘り下げられて説明されていない。たとえば「よい天気」の具体化は「晴れた暖かい日」、「食べ物」の具体化は「串焼き・肉・野菜」といったような例が挙げられている。
さらに「機能」は抽象に対応し、「機構・構造」は具体に対応すると考えられている。
例として、「楽しいお花見」は要求機能(課題・目的)であり、「良い天気」は機能要素(課題要素、目的を達成する手段)である。そして「晴れた暖かい日」は機構要素(解決策)であり、「時に関すること」が構造(具体案)、楽しい花見の全体計画は全体構造(全体計画)である。
これらを理解しようとしたときに、そもそも抽象や具体とはどんな意味だったのか、改めて考えると理解できていなかったことに気づいた(構造と機能概念についても別途扱う必要がある)。
もちろん、「リンゴより果物が抽象的である」ことは理解できる。「ダイエットをすること」よりも「ダイエットのためにランニングをすること」が具体的であることとも理解できる。「エネルギー効率という目に見えにくい」機能よりも「効率を実現する目に見えやすい形」という構造が具体的であることも理解できる。
しかし、なぜAはBよりも抽象的であるといえるのか、その基準や法則性、分類、タイプを説明しようとすると思考が止まってしまう。曖昧な理解のままで過ごすのは問題である。
そこで、動画を別に分けて、抽象化を整理することにした。概念の整理の補助線として、哲学者のフッサールの現象学の基礎概念を使っていくことにする。※なお、小難しい現象学の精緻な話は取り扱わない(都合のいいように解釈して利用する)。次回の記事は論理階型理論をもとに抽象化を理解していきたい。
・特に参考にしたページ
畑村洋太郎「技術の創造と設計」,281p
日常的に使われる「抽象的」の意味
「抽象的過ぎて理解できない」
「抽象的すぎて理解できない」という言葉を誰しも一度は聞いたことがあるだろう。
あるいは芸術の領域では「抽象画」というジャンルがある。
これらに共通している性質とはなにか。
端的に言って、「何が何だかわかりにくい」という性質である。「曖昧で、不明確で、厳密ではない、具体的ではない」といったニュアンスで用いられている。
「車のキーはそこにある」と言われて、どこかわかるだろうか。「具体的な場所を教えて」という会話があとに続くかもしれない。
仕事で上司から「もっと上手に業務をこなして」と言われても、「なにが上手なのか、具体例を出して欲しい」と思うかもしれない。
たとえば「1階にレジがあって、右側に棚が3つあって、奥に冷蔵庫があって、店員が2人いて・・・そこに行ってくる」と具体的に説明されるとする。要するに、「コンビニに行ってくる」と言いたいわけである。
この場合、あまりにも具体的すぎて逆に理解しにくくなっているといえる。抽象的すぎても曖昧で理解しにくく、具体的すぎても冗長で理解しにくい。「抽象的なものを具体的にすればいい」というわけではなく、その塩梅をケースバイケースで知る必要がある。
抽象と具体の度合いをケースバイケースで判断し、使用するためには、まずは概念を理解する必要がある。
今回は具体化を「抽象度を下げる行為」として便宜的、包括的に扱う。つまり、抽象化をマスターすれば具体化も同時にマスターできるものと仮定する(厳密な話をすれば抽象化と逆のことをすればいいという単純な話ではないが、今回は深掘りしない。)。
抽象病と具体病とはなにか、意味、定義、わかりやすく解説
ビジネスコンサルタントの細谷功さんは、抽象化を「ごく少数の言葉や図形で森羅万象を説明すること」であるとしている。
抽象化の効用として、「説明能力、コミュニケーション能力、効率化、創造性」などさまざまなものが挙げられるという。
細谷さんは一般的な理想論ばかりを述べて行動しない人、ベストを尽くしますといった抽象的な表現ばかりをする人を「抽象病」と表現している。
一方で、具体的な指示がないと理解や行動ができない人、応用ができない人を「具体病」と表現している。
AIの台頭によって、具体的な指示がないと行動ができない人は置いていかれてしまう。「自分で抽象的に考えて、かつ具体的に行動できる人、そして抽象と具体を反復できる人、応用できる人」が生き残っていく。具体から具体の反復は「表面的な解決」であり、抽象から抽象の反復は「机上の問題解決」であり、具体から抽象、そして具体への反復こそが「根本的な問題の解決」につながるという。
・特に参考にしたページ
「『具体⇔抽象』トレーニング: 思考力が飛躍的にアップする29問」,1章
「抽出」と「捨象」の違い
「抽象(英:abstract)」を調べてみると、「与えられた対象全体から、特定の性質や共通の徴表を分離し抜き出す精神作用」(日本大百科事典)や「経験されたもののなかのある特性に注目してこれを取出し、ほかを捨てること」(ブリタニカ国際大百科辞典)、「世界の中からある特性だけを引き離して思考の対象とする知性の働き」(百科事典マイペディア)などと出てくる。
たとえばスコラ学(信仰の内容を理論的に説明しようとした哲学)では、抽象を「具体的な個物よりその類や種を引き出すこと」と「質料より形相を切り離すこと」の2つにわけて説明されている。
POINT抽象(英:abstraction):一般に、事物または表象からある要素・側面・性質をぬきだして把握すること(デジタル大辞泉の定義)。
仮に抽象(抽象化)をこのように広く定義すると、「抜き出される側」と「抜き出されない側」の両方がセットで同時的に成立することがよくわかる。そして、「抜き出されなかった側面」に着目すると「捨象」と表現できる。
似たような用語に「圧縮」がある。たとえば眼の前のさまざまな現れ方をするリンゴを「赤いリンゴ」と文字で表現した場合、具体的な光の反射率やツヤとの組み合わせなどが単純化されている。
アナトール・ラパポートという数理心理学者は、抽象化を「無限に多様な経験を短い音(言葉)に写像するメカニズム」であると述べている。われわれは目の前の「複雑で多様な現象そのもの」を全て思考の対象にしているわけではない。我々は対象を短く、あるいは部分的にコンパクトに解釈し、変換し、圧縮している。
たとえばリンゴ(一般)の本質は「AとBとCの組み合わせである」と抽出されたとする。この場合、赤色は抜き出されていないとする。言い換えれば、捨てられている。なぜなら緑色のリンゴも存在するからである。
選ぶという行為は、選ばない行為とセットなのである。このように、抽象作用には「抽出的側面」と「捨象的側面」があると整理できる。
捨象されるのは主に具体的な要素、偶然的な要素である。たとえば眼の前のリンゴの特定の、このリンゴにしかないツヤや色のあり方、甘みは捨象されると考えるとわかりやすい。
ただし、どういった要素が捨象されるかはケースバイケースである。「リンゴの本質とはなにか、果物の本質はなにか」と問う場合に個別的で偶然的な要素は捨象される。しかし「このリンゴのどこが美しいのか」と問う場合には、個別的で偶然的な要素が抽出され、他の要素は捨象されるかもしれない。目的次第といえる。
・特に参考にしたページ
・主にコトバンクの抽象化の説明ページを参考にした。
・アナトール・ラパポートの言及化についてはwikiのページを参考にした。
固有化、一般化、特殊化
一般化とはなにか、意味、定義、わかりやすく解説
抽象化は「対象の数の違い」によって、二種類に簡易的に分けて考えることができる。
ここでいう対象とは属性の数ではなく、属性を備えた対象の数である。個体は「このりんご」でも「リンゴ一般」でもいい。
たとえばゴッホの「ひまわり(絵)」の美しさの要素はどこにあるか、と抽出する場合の考察対象は1つである。
一方で、「ひまわり(絵)」と「タンギー爺さん(絵)」に共通するテーマはどこにあるか、と抽出する場合の考察対象は2つである。
りんご、ぶどう、みかんなどを考察していき、共通する要素Aを見つけ出し、「果物」という大きなラベルを貼るとする。この場合の考察対象は二つ以上である。
このように、考察対象が複数あり、共通する性質を見つけ出す思考を「一般化(英:generalization)」という。
例:目の前のポチは個体、秋田犬は種、哺乳類は類といった抽象度を上げていく作用も一般化の一種である。
固有化とはなにか、意味、定義、わかりやすく解説
そもそもリンゴとブドウの共通点を見つけるためには、リンゴの本質を先に見つける必要がある(本質がわかっているからこそ、リンゴと呼んで他のの果物と区別できるわけである)。そしてリンゴの本質を見つけるためには、複数のリンゴの個体を考察する必要がある。
複数のリンゴを見て、共通する要素を見つけ出し、リンゴというより高次の概念を構成するのである。
しかしその前段階に、まずは一個の「それ」(リンゴと呼んでいない段階かもしれない)を考察する段階がある。
「それ」を触ってみると、スベスベしている。食べてみると甘い。持ってみると、そこそこ重い。ツヤがあり、赤っぽい。ヘタがあり、中には種がある。木になっている。このようにまずは属性を列挙してみる。
「それ」の無限にあるかのように抽出しうる属性から、とりあえず理解できる属性を抽出して考察している段階である。これも立派な「抽象化」である。そして抽出されなかった属性に着目すれば、「捨象」であるといえる。
しかし「それ」だけを見ていても、「それ」の本質はわからない。つまり、「それにしかない属性(固有性)」はわからない。なぜなら、「それ以外の個体との比較」によってそれの本質が相対的にわかってくるからである。
つまり、「ある個体(それ)がもっている属性」と、「ある個体独自の属性」は異なるといえる。たとえばリンゴもワインもバラも、「赤色」という属性はもっている。しかし、赤色は本質ではないだろう。
「ある個体独自の属性」を考察するためには、「それ」と「それ以外」を比較する必要がある。たとえばリンゴと洋梨は似ている。甘さ、ヘタ、種、重み、ツヤがそっくりである。洋梨と似た色のリンゴも存在する。
分子などの違いによって区別する方法もあるだろう。あるいは発生や形態の違いかもしれない。あるいは果実の構造の違いかもしれない。あるいは単純に、梨は「少しひょうたん型」であるとか、「味が少しさっぱりしている」とか、「よりシャキシャキしている」といった直観的な要素があるかもしれない。
いずれにせよ他の似た個体と「比較」し、その「違い(差異)」によって複数の属性から「本質」が抽出されていくのだといえる。
本質は1つの場合もあれば、複数の要素の組み合わせの場合もあるだろう。
たとえば緑色、青色、黄色、紫色といった色の羽をもっている鳥がいるとする。緑色の羽や青色の羽なら他の鳥にも備わっている。しかしそれらが同時に備わっている鳥は、この鳥だけだと観察によってとりあえずわかったとする(全ての鳥を観察したわけではないのだから、常に仮説に留まる)。この場合、「緑色、青色、黄色、紫色」という組み合わせがここでは重要になる。
「緑色、青色、黄色、紫色といった色の羽をもっている鳥」を仮に、「四色鳥」という種で一般化してみる。鮮やかな緑だったり、そうではない緑だったりする個体もこの種にはたくさんいる。しかしそうした違いを捨象して、一般化するのである。
さらに「鳥類」というより上位の概念の本質を考える場合、「緑色、青色、黄色、紫色といった色の違い」は重要ではなくなり、捨象される。「くちばし」や「翼」、「卵」といった要素が一般化の段階では重要になってくるのだろう。
図にするとこのようになる。
抽象化には「属性の抽出」と、「本質の抽出(一般化)」の二段階を想定できる。
特殊化とはなにか、意味、定義、わかりやすく解説
しかし、我々が抽象化を行う場合、必ずしも一般化を伴うものではない。「このリンゴ(個体)特有の赤さ」という属性を抽出して観察するのは、必ずしも「このリンゴの本質」、「赤さの本質」を明らかにするとか、「リンゴの定義をしたい」とか、「果物に分類されるかどうかを知りたい」とは限らない。
単に特定の属性を抽出し、その属性と対象の関係を明らかにしたい場合などが想定できる。たとえばある人間の「容姿」だけを見て判断する行為なども「抽象的な考察」であるといえる。
抽象化を「属性の抽象化」であるとすれば、「単一の対象から任意の属性を抽出する行為」を特殊化、「複数の対象を比較して単一の対象の固有属性を抽出する行為」を固有化、「複数の対象を比較して、それらの共通属性を抽出する行為」を一般化に簡易的に分類できる。
先程は「対象の数」だけで分類したが、「比較の有無」という軸を足すとより整理できる。
※そもそも「複数の対象」と区別できる時点でなんらかの比較が生じているともいえる。対象の差異を認識したうえで、属性をあえて比較しないということになる。
今回特に参考にした文献
谷 徹 「これが現象学だ (講談社現代新書 1635) 」
細谷 功 「「具体⇄抽象」トレーニング 思考力が飛躍的にアップする29問 (PHPビジネス新書) 」
細谷 功 「「具体⇄抽象」トレーニング 思考力が飛躍的にアップする29問 (PHPビジネス新書) 」
汎用文献
高橋 誠「問題解決手法の知識」
鷲田 小彌太「分かる使える思考法事典: アイディアを生み出し、形にする50の技法」
鷲田 小彌太「分かる使える思考法事典: アイディアを生み出し、形にする50の技法」
三谷宏治「マジビジプロ 超図解 三谷教授と学ぶ 「拡げる」×「絞る」で明快! 全思考法カタログ」
三谷宏治「マジビジプロ 超図解 三谷教授と学ぶ 「拡げる」×「絞る」で明快! 全思考法カタログ」
B.ミラー (著), 弓野 憲一 (監修, 翻訳), 宗吉 秀樹 (翻訳) 「創造的問題解決: なぜ問題が解決できないのか?」
B.ミラー (著), 弓野 憲一 (監修, 翻訳), 宗吉 秀樹 (翻訳) 「創造的問題解決: なぜ問題が解決できないのか?」
















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