【1ワード社会心理学第十七回(4)】科学的管理法や限定合理性との比較

社会心理学

動画での説明

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はじめに

社会心理学とは、人間の社会的な振る舞いの法則や仕組みを解明する学問である。

この動画シリーズは下の図に示すように、創造発見学に位置づけられている。

この記事のシリーズは創造発見学に位置づけられている。要するに、アイデアをひらめくための情報を学ぼうというわけである。ビジネス、友人関係、学業、さまざまなものにそれぞれ活かしてほしい。

できるだけ1ワードに説明する対象を絞っていく。※社会心理学だけではなく他の心理学を扱うこともある。

基本的な説明プロセスは、上の図の通りである。

記事の分割について

記事を分割しています。

ホーソン効果以前の科学的管理法(テイラーシステム)

「テイラーの科学的管理法」とはなにか、意味、定義、わかりやすく解説

ホーソン研究以前の組織研究の主流はテイラーによって提唱された科学的管理法だったという。

POINT科学的管理法(英:Scientific Management):作業を科学的に分析・標準化し、成果に応じて賃金を決めることで生産性を高める管理方法のこと。

工程ごとに標準的な作業時間を定めるための研究である「時間研究」と、作業目的に照らして無駄な動作を廃し、最適な動作を定めるための研究である「動作研究」などが考えられている。

研究によって定められた標準を達成できるかどうかで賃金を増減させる方式を「差別的出来高賃金」という。

・特に参考にしたページ

「社会心理学」,有斐閣,補訂版第二刷,353p

テイラーにおける「科学」とは

経営学者の三戸公さんによると、テイラーは科学を「データを集め、それを分類し、分析し、表示し、そこから法則・規則を導き出し、さらに作業に役立つ方式をつくりだすこと」であると理解していたという。

たとえば工場で部品を組み立てる作業において、Aさんは10分、Bさんは5分で可能になったというデータがあるとする。なぜBさんが早いのか、よく観察してみる。たとえば部品をどこに配置しているか、道具をどのように使っているかなどを分析し、そこから「効率的な方法」をつくりだしていくのである。

・特に参考にしたページ

稲田勝幸「科学的管理法再論」(2015),61-62p

野中郁次郎さんにおける「共同化」、「表出化」、「連結化」、「内面化」とは

経営学者の野中郁次郎さんは暗黙知と形式知の相互関係を「共同化」、「表出化」、「連結化」、「内面化」の4段階に分けて整理している。暗黙知とは「経験や勘によって身についているが、言葉や数字では明確に説明しにくい知識」である。形式知とは「言葉、数字、図表などによって明確に表現できる知識」である。

テイラーによる科学は、暗黙知を形式知へと変換する作業、つまり「表出化」にあたることになる。

現場の「労働者の経験・勘」に依存するのではなく、経営者側がしっかりと観察・測定・分析を行って形式化し労働者にパターン(コツ)を教え込むことが重要だということになる。

形式化されたものを身体に教え込む作業が「内面化」であり、形式知を複数組み合わせて新たな形式を作る作業が「連結化」である。「共同化」は熟練者と一緒に仕事をすることで身につくような作業である。

・特に参考にしたページ

稲田勝幸「科学的管理法再論」(2015),62p

ドラッカーによるテイラーへの批判

経営学者のピーター・ドラッカーは、科学的管理法を「人間の仕事を初めて科学的・体系的に研究し、生産性を大きく向上させた点に大きな功績がある」と評価している。

一方で、「仕事と人間を同じように考えている」という問題、「計画と実行を分けすぎている」という問題を指摘している。

端的に言えば、働く人間の性質や行動についての理解が不十分だったのである。現場の意見・感情を軽視し、経営陣からトップダウン的にやり方を押し付けるような形をとっていたのである。

・特に参考にしたページ

稲田勝幸「科学的管理法再論」(2015),118p

廣瀬幹好「 科学的管理と人的要素」(2021),79-80p

科学的管理法への批判

テイラーの科学的管理法は「機械モデル」として例えられることがある。機械の部品を観察して効率的な動きを探すように、労働者も機械の部品としてとらえられているというものである。

たとえばドルーリー(Horace B. Drury,1916)は「現場で働く多くの人の知識や意見を取り入れたほうが、複雑な産業社会ではよりよい方法が生まれる」と指摘している。トンプソン(Thompson,C. Bertrand,1917)は「法則が正しいかどうかと、それを使うことに人々が同意するかは別問題だ」と指摘している。

「能率が高いから正しい」だけではなく、「実際に働く人が納得する」という心理的要素が重要であると早い段階から主張されていたのである。

そんな中で現れたのがホーソン研究である。ホーソン研究も最初は照明実験のように科学的管理法的なやり方をとっていたが、しだいに「感情」や「人間関係」が生産性にとって重要なのではないかと主張されていくことになる。機械モデルから人間関係論へと組織論が転換していくきっかけをつくることになる。

・特に参考にしたページ

「社会心理学」,有斐閣,補訂版第二刷,353p

廣瀬幹好「 科学的管理と人的要素」(2021),86-88p

工業化社会からポスト工業化社会へ

「工業化社会」とはなにか、意味、定義、わかりやすく解説

POINT工業化社会(英:Industrial Society):工場でモノを大量に生産する産業が中心となる社会のこと。例:自動車、鉄鋼、機械などの製造業が経済の中心。低学歴や低技能でも熟練によって長期雇用されていた。

フォーディズム(標準化した製品を、ベルトコンベヤーによる流れ作業で大量生産し、低価格で大量販売する生産・経営の仕組み)などに代表されるように、大量生産と大量消費が基本となる。

「ポスト工業化社会」とはなにか、意味、定義、わかりやすく解説

POINTポスト工業化社会(英:Post-Industrial Society):製造業中心の社会から、サービス・情報・知識を扱う産業が中心となった社会のこと。例:IT、金融、教育、コンサルティングなどが台頭してくる時代。社会学者のダニエル・ベルによる用語。

物の生産からサービス業へ経済活動の重点が移行するだけではなく、専門職や技術階級がより優位になっていくという点が重要である。さらにAI技術の発展により、「知識を扱う産業」から人間が締め出されていく社会を想定することもできるだろう。

テイラーの科学的管理法は「単純な労働の効率を高める」という目的にとっては優位に働きうる。しかし、複雑なチームワークや、独自性の高いアイデア、創造性が必要なサービス業の分野ではそのままの形では適用しがたい。

ウォルフ(Robert B. Wolf)がテイラーの方法を批判する際に「あらゆる労働者に対して、自らの個性を伸ばし、外的な力にただ反応するのではなく『自発的に』働く機会を与えることが必要である」と述べていたことと重なってくる。

テイラーのように人間を受動的なロボットとみなすだけでは自発的な創造性が発揮されにくい。では、ホーソン研究のように人間の心理や社会関係を分析し、人間関係を良くすれば創造性が発揮されるのだろうか。この問題は社会学においても、人間の具体的な行為の心理的解釈に着目するか、社会的構造や制度などに着目するかという違いによって重要となる問題である。

ポスト工業化社会において成果を出すという目的に適しているのはどのような解釈なのだろうか。

・特に参考にしたページ

廣瀬幹好「 科学的管理と人的要素」(2021),88-89p

サイモンにおける限定合理性モデル

サイモンにおける「限定合理性」とはなにか、意味、定義、わかりやすく解説

社会心理学ではホーソン研究のような人間関係論の次にくるもの、その限界を超える可能性をもつものとして「限定合理性」という概念が挙げられることがある。

限定合理性というアイデアは経営学者のサイモンが、経営学者のバーナード(Chester I. Barnard)に影響を受けて主張した概念である。

POINT限定合理性(英:bounded rationality):組織が個人の意思決定環境を限定することで、個人が組織目標に沿って合理的に判断・行動できるようにする考え方のこと。

・特に参考にしたページ

吉野直人「 限定合理性の理論的射程: バーナードの戦略的要因の理論と サイモンの科学観に注目して」(2014),79-80p

「組織における合理性」とはなにか、意味、定義、わかりやすく解説

そもそも「合理性」や「限定」とは何を意味するのだろうか。曖昧な理解のままでは記憶に残らず、応用もきかないのでしっかりと理解していきたい。

サイモンは合理性を「ある目的を達成するために、適切な行動を選べている状態」として定義している(目的合理性)。

つまり、ある行動が合理的かどうかを知るためには「目的」を知る必要がある。サイモンが出している例では、敵から逃げることも、敵に立ち向かうことも合理的でありうるという。たとえば「自分の命を守る」という目的にとって敵から逃げることは合理的でありうる。「戦争に勝つ」という目的にとって敵に立ち向かうことは合理的でありうる。

このように定義すると、「どんな行動でも目的次第では合理的でありうる」ということになる。

サイモンが提唱する「限定合理性」における合理性は主に「組織における合理性」を意味する。つまり、「個人ではなく、組織の目標に役立つ行動が合理的である」ということになる。

先程の兵士のケースでは、たとえば「命欲しさに敵に情報を渡す」ということは個人単位では合理的でありえても、組織単位では合理的でありえないケースが多いといえる。

では、「合理性が限定的である」とはどういう意味か。純粋に解釈すれば、「人間の認知能力や言語能力の限界」だと理解することができる。

・特に参考にしたページ

吉野直人「 限定合理性の理論的射程: バーナードの戦略的要因の理論と サイモンの科学観に注目して」(2014),84-85p

限定合理性における「限定」とは

サイモンも「全ての情報を集めることができない」、「複雑な情報を完全に理解することができない」、「すべての選択肢を比較できない」といった人間の能力上の限界を認めている。

しかし、サイモンのいう「限定合理性」とは、「組織における合理性には能力上の限界がある」だとか、「組織に所属する個人には能力上の限界がある」といったことを強調したいわけではないという。

限定合理性における「限定」とは、「個人の行動が組織目標に合うように、注意する範囲や判断の条件を限定すること」を意味している。つまり、組織が個人に目標を与えることによって、情報の獲得範囲を単純化し、より目的に沿った合理的な行動を生じさせやすくするというわけである。

人間の能力に限界があることは前提であり、そのうえで、組織が意思決定環境を整え、個人に合理的な行動を取らせるという考え方なのである。

ここで注意しなければならないのは、組織が個人の情報処理を制約すること、目的を与えることで「個人の合理性が増大する」と述べているわけではないという点である。増大するのは「組織の合理性」であり、「個人の合理性」ではない。個々人を組織から孤立的に切り離して合理性を簡単に判断することはできない。

個人の限界を補い組織レベルの合理性を増大させるような仕組みの例として、「分業」、「組織の階層」、「権限」、「コミュニケーション」、「訓練」、「標準業務手続」などが挙げられている。

たとえばクレームの処理で、「自分で考えてください」と組織が労働者に自由にさせているだけでは組織の目的に反するような行動が増えてしまう可能性がある。「標準業務手続」、いわばマニュアルのようなものを定めることで、労働者はどういう方向で対処すればいいかを判断できるようになる(合理性の基準の把握)。

・特に参考にしたページ

吉野直人「 限定合理性の理論的射程: バーナードの戦略的要因の理論と サイモンの科学観に注目して」(2014),85-87p

限定合理性における創造性

「ロボットのように組織の制約、目標どおりに単に従えばいい」というわけではない。あくまでも「一定の方向」が重要であり、この範囲において自由や創造性が働く余地があるといえる。

そもそもサービス業などの複雑な業務では、あらゆる客層、あらゆる文脈が考えられ、それらに完全に対応したマニュアルなど用意することはできない。しかし、基本のマニュアルを組み合わせたり、参考にすることで「方向」を獲得することは可能である。

ポスト工業化社会の時代、そして情報化社会の時代において、我々はより多くの情報を処理しなければならない複雑な状況の中にいるといえる。

特定の単純作業を科学的に観察し、効率化するといった科学的管理法だけでは限界がある。「人間関係も大事だ」という発見も重要だが、具体的にどのようにして行動や生産性につながるかといった究明がされていないという問題がホーソン研究にはあった(あとで実証研究への批判を見ていく)。

サイモンによる限定合理性のモデルによって、組織の合理性を高めることができれば、複雑な環境をより効率的に処理できる可能性が高まる。つまり、生産性を上げることのできる可能性が新たに示されるということになる。

ただし、組織で行動するゆえに「集団思考」が活性化し、ステレオタイプや幻想、危険な行為をもたらす可能性もあることに注意する必要があるといえる。

参考文献

汎用文献

社会心理学 補訂版 (New Liberal Arts Selection)

社会心理学 補訂版 (New Liberal Arts Selection)

デイヴィッド・マクレイニー (著), 安原 和見 (翻訳) 「思考のトラップ 脳があなたをダマす48のやり方」

デイヴィッド・マクレイニー (著), 安原 和見 (翻訳) 「思考のトラップ 脳があなたをダマす48のやり方」

亀田 達也(監修)「眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学」

亀田 達也(監修)「眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学」

参考論文

稲田勝幸「科学的管理法再論」(2015)[URL]

廣瀬幹好「 科学的管理と人的要素」(2021)[URL]
廣瀬幹好「科学的管理と産業民主主義」(2018)[URL]

大橋昭一「ホーソン実験・従業員面接活動の進展過程: インタビュー活動からカウンセリング活動へ」[URL]

大橋昭一, 竹林浩志「ホーソン効果の実体をめぐる諸論調: ホーソン効果についてのいくつかの見解」(2006)[URL]
大橋昭一「ホーソン実験についての近年の諸論調: 1990 年以降における諸論調を中心に」(2008)
[URL]
大橋昭一「ホーソン実験についての批判的諸論調: 1960 年代ごろまでの状況を中心に」(2008[URL]

大橋昭一, 竹林浩志「ホーソン効果をめぐる教育学分野の諸論調: 1990 年代ごろまでの状況を中心に」(2007)[URL]

藤原元一「ホーソン実験」(1972)[URL]

吉野直人「 限定合理性の理論的射程: バーナードの戦略的要因の理論と サイモンの科学観に注目して」(2014)[URL]

Steven D. Levitt and John A. List, “Was There Really a Hawthorne Effect at the Hawthorne Plant? An Analysis of the Original Illumination Experiments”, 2009年5月, NBER Working Paper No. 15016.[URL]

Daniel Schwartz, Baruch Fischhoff, Tamar Krishnamurti, and Fallaw Sowell, “The Hawthorne Effect and Energy Awareness”, 2013年, Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS).[URL]

Gabrielle Wong-Parodi, Tamar Krishnamurti, Joshua Gluck, and Yuvraj Agarwal, “Encouraging Energy Conservation at Work: A Field Study Testing Social Norm Feedback and Awareness of Monitoring”, 2019年, Energy Policy, 130, 197-205.[URL]

Kenneth L. Leonard and Melkiory C. Masatu, “Using the Hawthorne Effect to Examine the Gap Between a Doctor’s Best Possible Practice and Actual Performance”, 2010年, Journal of Development Economics, 93(2), 226-234.[URL]

Rob McCarney, James Warner, Steve Iliffe, Robbert van Haselen, Mark Griffin, and Peter Fisher, “The Hawthorne Effect: A Randomised, Controlled Trial”, 2007年, BMC Medical Research Methodology, 7, 30.[URL]

Fuhai Hong, Tanjim Hossain, John A. List, and Migiwa Tanaka, “Testing the Theory of Multitasking: Evidence from a Natural Field Experiment in Chinese Factories”, 2013年11月, NBER Working Paper No. 19660.[URL]

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